革新的ガラス溶融プロセス技術開発プロジェクト
2015.1.22
 NEDO研究開発機構「エネルギーイノベーションプログラム」における「革新的ガラス溶融プロセス技術開発」プロジェクトが、平成20年度から24年度の5年間にわたり実施されました。
そのプロジェクトの成果と今後の課題を以下に述べます。

<背景>
 ガラスは、住居・自動車の窓、断熱材、食器・飲料びんなどから、太陽電池、液晶テレビ、非球面レンズ等のニューガラスに至るまで、広く身近に存在する素材です。優れた耐久性を有するガラスは長期の使用やリユースに耐え、リサイクル活用も進み、廃棄後は土壌・大気・水質汚染の心配もなく、地球環境の面からも好ましい素材といえますが、唯一その製造に多量のエネルギーを消費する点が弱点となっています。
 ガラス製造業における消費エネルギーの大部分を占めるガラス溶融炉は、1867年にドイツのシーメンス兄弟が開発した炉を基本とし様々な改良や先進技術を盛り込みながら、140年を経て技術が受け継がれてきました。しかし、高品質化・低コスト化の要請、地球温暖化問題の高まり、そしてエネルギーコストの高騰などから、ガラス溶融技術の革新への期待は高まっています。
 その中で新たに誕生したガラス溶融技術「インフライトメルティング(気中溶融)」は、3年にわたるNEDO技術開発機構先導研究「直接ガラス化による革新的省エネルギーガラス溶解技術」プロジェクトにおいて原理的な有効性が証明され、平成20年度からは国家プロジェクトとして実用化に向けた研究開発が実施されることとなりました。
 そして、5年間の研究開発は計画通り順調に進展して所期の目標を達成し、現在は実商化に向けて地道な取り組みが進められています。

<新溶融技術「気中溶融」への期待>
 現行のガラス溶融炉は、ガラス原料を融液上で徐々に溶かし、時間をかけて気泡を抜き組成を均質化します。
 これに対して、インフライトメルティング(気中溶融)法は、最終組成に近い原料成分の混合物を微小粒子の状態で準備しておくことにより、原料段階でほぼ均質化がなされ、それを気中で瞬時に溶かすことにより均質性が保たれ、同時に微小粒子の状態で気泡が排除されるために、ごく短時間のうちに高品質のガラス溶融が達成されます。溶融したガラス粒子は落下して融液溜まりを形成し、そこで更なる均質化と気泡の排除がなされますが、もともとある程度の均質性が確保され気泡も少ないため、短時間の溶融で十分な品質のガラスを得ることができます。さらに、高温雰囲気中に微細原料を直接投入するため、エネルギー利用効率が高く大幅な省エネルギーが可能となります。
 この技術が実用化されれば、
   1)ガラス溶融プロセスの消費エネルギーは1/2程度に低減でき、
   2)大幅なガラス溶融時間の短縮と
   3)炉の大幅な小型化、
   4)CO2、NOx等の排ガス削減、
   5)蓄熱室の省略、
   6)ガラス品質の向上、
 更には、   
   7)不良ガラスや廃棄レンガの削減、
   8)ジョブチェンジ時間の短縮
   9)耐火物寿命の延長
等の多くのメリットが享受できるでしょう。
 しかも、この技術は平面ディスプレイ用基板ガラス、光学ガラス等の小型炉から、ガラスびん、建築用・自動車用板ガラスなどの大規模炉まで、ほとんどの炉に適用し得る汎用性の高い技術と考えられます。我が国のガラス産業は、産業全体が消費するエネルギーの約1%を消費するエネルギー多消費産業の1つで、その大半をガラス溶融炉で消費しています。特に、高い品質が求められる液晶ディスプレイ等のニューガラスは生産量当たりのエネルギー消費が多くなってます。これら多くのガラス溶融炉にインフライトメルティング技術が導入され大幅な省エネが実現されれば、温室効果ガスの削減にも寄与できると考えられます。

100t/d実用炉の想定図


<プロジェクト発足の経緯>
 インフライトメルティング技術の実用化には克服すべき技術的課題がありました。例えば、原料が投入される高温雰囲気の安定性、炉材の耐久性の確認、カレット(ガラス片)の効率的な加熱、ガラス原料融液とカレット融液との均質化、炉の稼働条件変更時の対応などです。また、ガラスの製造のしかたを根源から変えてしまうガラス溶融炉の革新は、巨額な設備投資を伴う極めてリスクの高い開発課題で多額の研究開発資金と時間を必要とします。そのため企業レベルの取組みのみに委ねていたのでは早期の実用化は難しいと考えられ、国のプロジェクトとして課題の克服をめざすことになりました。

<プロジェクト成果の概要>
 本プロジェクトは、インフライトメルティング技術を軸とし、実用化の障害となる技術的課題を解消することにより、ガラス溶融炉の大幅な省エネを達成することが目的です。5年間の研究開発を経て、最終的にガラス溶融工程が半日以下となるプロセスを確立し、2015年頃に小型炉を実用化し、2030年までに大型炉の実用化を目指します。
 下図はインフライトメルティング技術に基づいたガラス製造プロセスの工程フローの例です。今回のプロジェクトの開発対象は、ガラス原料の造粒〜気中溶融〜融液化〜撹拌、およびカレット工程の予熱〜溶融です。

図  インフライトメルティング技術によるガラス製造プロセスの工程フローの例

















図 新プロジェクトの研究開発体制














   

 研究開発体制を上図に示します。井上悟PLのもと(独)物質・材料研究機構、(国)東京工業大学(渡辺隆行研究室、矢野哲司研究室)、旭硝子(株)、東洋ガラス(株)および(社)ニューガラスフォーラムの5研究機関で課題を分担し、主要な課題については東洋ガラスおよび旭硝子に設ける共同実施場所において各機関協力の下に研究を進めました。
 研究テーマは、次の(1)〜(3)の3つに大別されます。

(1)インフライトメルティング技術
 このテーマの目標はインフライトメルティング技術の実用性について総合的な見通しを得ることです。平成22年度末までに原料溶融エネルギー目標値1000kcal/kg-glass以下、平成24年度末までに900kcal/kg-glass以下をソーダ石灰ガラスの日産1ton炉で実証しました。
 主な成果は次の通りです。
 1)溶融炉と酸素燃焼バーナーを改良することにより、1t/d規模の試験炉での運転で955kcal/kg-glassの消費エネルギー条件下、連続的なガラス溶融を実証しました。ガラス原料は、1粒1粒が最終ガラス組成(ソーダ石灰ガラス)に近い組成の直径約0.1mmの造粒体の形で供給され、出口からは均質なガラス融液が安定的に流出されました。
 2)LCD用の無アルカリ硼珪酸ガラス組成については、気中溶融時の硼素の揮発の抑制に造粒体の強度(崩れにくさ)向上が決め手となり、1t/d試験炉で消費エネルギー2,400kcal/kg-glassでの連続運転を実証できました。ソーダ石灰ガラスよりも泡層が生じやすい傾向でしたが、この条件では問題とはなりませんでした。
 3)未来のガラスを造りだすために開発を進めた12相交流アークと酸素燃焼バーナーとを組み合わせたプラズマ気中溶融炉は、安定性に課題がありましたがアーク発生方法を最適化することにより克服し、放電電極の消耗によるガラス融液への不純物混入の影響についても回避できるレベルまで低減できました。
 4)未来ガラスの例としてCaO-Al2O3-SiO2系組成の気中溶融を試み、造粒および溶融とも問題なく適用できることが確認できました。
 5)溶融ガラスの清澄に関しては、1t/d炉で得たソーダ石灰ガラスに存在する気泡のガス成分はCO2が主であり、微細な気泡にはN2が含まれる傾向にあることと、ガラス中に溶解しているガス成分はH2O、CO2とSO2であることがわかり、溶融ガラスの冷却過程で気泡ガス成分がガラス中に溶解して気泡が縮小し清澄されることが確認できました。
 6)先導研究で開発したシミュレーションモデルに加え、多相プラズマ、液体燃焼、融液撹拌、耐火物侵食、動的泡層などのモデルを開発するとともに、シミュレーションの高速化を実現し、気中溶融炉シミュレーションの精度向上を図ることで、将来の実用炉の設計・運転の足掛かりを築きました。

(2)ガラスカレットの高効率加熱技術
 このテーマの目標は、テーマ(3)と併せてカレット利用を前提とした新技術の総合的見通しを得ることです。平成22年度までにカレットの1200℃までの昇温所要時間を1分以内にし、平成24年度末までに溶融エネルギー目標値1800kcal/kg-glass以下をカレットのみの日産1ton炉で実証しました。
 主な成果は次の通りです。
 1)粒径0.1〜0.5mmの微粒カレットを用いることで、造粒原料と同様に気中溶融ができることを確認し、消費エネルギー1,080 kcal/kg- glassでの安定的なガラス溶融を1t/d炉で実証しました。 造粒原料を混合した原料でも同様の結果が確認できました。
 2)撹拌子付き間接加熱式ロータリーキルンを開発し、カレットどうしを融着させることなく微粒カレットを約400℃まで予熱できることを実証しました。
 3)既存のカレット生産ラインの最終工程に乾式のロータリー粉砕機を設置する方法で、安価な微粒カレット生産の方法を提案しました。

(3)ガラス原料融液とカレット融液との高速混合技術
 このテーマの目標は前述の通りです。機械的撹拌による高速均質化により、原料融液とカレット融液との混合・均質化を平成22年度までに4時間以内、平成24年度までに2時間以内で行えることを日産1ton炉で実証しました。
 主な成果は次の通りです。
 1)気中溶融炉に設置された均質槽にネジ形撹拌子(2本/対×3対)を配置し、目標とする均質度を達成できることが確認できました。
 2)シュリーレン画像から、成分ムラの規則性を特徴付ける動径分布解析法、および、成分ムラの程度を特徴付ける 画像輝度分布の標準偏差を指標とする方法を構築し、原料融液とカレット融液との混合・均質化の定量的評価を可能にしました。

<気中溶融技術の今後の技術的課題>
 3年間のNEDO先導研究と5年間にわたる国家プロジェクトの研究開発により、革新的ともいえるガラスの気中溶融技術が将来的に多くのメリットを享受できる技術となることが明らかとなりましたが、実用段階に漕ぎつけるまでにはまだ次のような技術的な課題が存在します。
 1)低コスト・低エネルギー化技術
  ・ 噴霧乾燥に代わる低水分造粒技術の開発(目標:粒径500μm程度)
  ・ 粒径500μm程度の大きな造粒体に対応できる酸素燃焼バーナの開発
 2)原料&カレット〜秤量〜造粒〜溶融〜清澄の一貫システム化
 3)実炉設計および試験

 気中溶融技術に関する問い合わせは、ニューガラスフォーラム研究開発部の外池が窓口として対応いたします。炉の設計、シミュレーションおよびコンサルタント業務など、積極的に対処いたしますので、遠慮なくご連絡ください。

<5年間の予算調達額>
    平成20年度 : 総額 2.6億円
    平成21年度 : 総額 3.6億円
    平成22年度 : 総額 2.5億円
    平成23年度 : 総額 2億円
    平成24年度 : 総額 2.7億円
<発表論文など>
 NEDO「革新的ガラス溶融プロセス技術開発」事業原簿をご参照ください。

トップページへ戻る