三次元光デバイス高効率製造技術プロジェクト

2008年8月新聞発表
NEDOプロジェクト 『三次元光デバイス高効率製造技術』
     世界で初めて、“紙より薄い”ガラス内部に
        「24層三次元スパイラル構造の一括形成に成功」


     − 社団法人ニューガラスフォーラム・つくば研究室でホログラムにより作製 −

この度、社団法人ニューガラスフォーラム(NGF)は、経済産業省の国家プロジェクト『<ナノテク・部材イノベーションプログラム>「三次元光デバイス高効率製造技術」プロジェクト』(新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より受託)で、ホログラムを使用して、「三次元光デバイス」や「三次元光導波路型デバイス」等の製造を可能とする基盤技術を開発した。「24層三次元スパイラル構造」は、新たに開発されたホログラムの設計技術、作製技術を駆使して作製されたガラス・ホログラムに超短パルスレーザーの一種であるフェムト秒レーザー光を照射することにより、ガラス内部に三次元構造として作製された。加工に必要な最短時間は1パルスの発光時間である10-13秒(10兆分の1秒)以下であり、低コストでの加工が期待できる。
茨城県つくば市東光台研究団地内にある、NGFナノガラス研究本部つくば研究室(室長:田中修平)で作製されたスパイラル構造は、一辺が60マイクロメートル(100分の6ミリメートル)の立方体の中に24個のボールがスパイラル状に連なっている。
従来は、NGFによる8層構造の作製が最高であったが、今回、世界最高の24層の三次元微細構造が10兆分の1秒以下の非常に短い時間で、厚みが100分の7ミリメートル程度の紙より薄い領域に一括加工製法で作製されたのは世界で始めてである。
加工されたスパイラル構造とそのイメージのモデルを添付図1に示した。図2にイメージ図と実際に加工したデバイスの写真を示した。

本プロジェクトは、2006年度より5年間の計画で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より社団法人ニューガラスフォーラム(NGF)、国立大学法人京都大学、浜松ホトニクス株式会社へ委託され、プロジェクトリーダーを京都大学 平尾一之教授が務める。NGFのつくば研究室には、NGF所属の研究員の他、株式会社オハラ、ライトロン株式会社、フジノン株式会社、大日本印刷株式会社、ナルックス株式会社からの研究員が出向し共同で研究開発を行なっている。「三次元光デバイス高効率製造技術」とは、フェムト秒レーザー光を、デバイスの情報を書き込んだホログラムを通してガラス内部に照射し、三次元光デバイスを極短時間で作製するものである。従来の手法では、レンズを使用してフェムト秒レーザー光でスポット照射し、照射部の材料の性質を変えていわゆる異質相を作製し、この異質相の集まりとしてデバイス構造を作製していた。しかし、従来法では一点ずつの照射のために製作時間が長くなり、コスト高となるのが問題とされてきた。本プロジェクトでは、レーザー光をホログラムを通すことにより、一度のフェムト秒レーザー光の照射で瞬時にデバイスを作製することができる。従って、従来に比べて、1万倍以上の高速でデバイスを作製でき、製造コストを下げられる。また、一度に作製できるためにレーザービームのゆれやスポットの重なりによる形状の不均一性が無く、精度のよい加工ができ、従来に比べて性能の高いデバイスを低コストで作製することができる。また、フェムト秒レーザーによる加工は、スポット加工では最小200ナノメートル(1万分の2ミリメートル)の微細なサイズまで可能なことも確認されている。
この技術を用いて、一辺が60マイクロメートル(100分の6ミリメートル)という非常に狭いガラス空間の中に、層間距離2.5マイクロメートル(1000分の2.5ミリメートル)で24層24個を三次元形状であるラセン状に、ホログラムによる一括加工で並べることに世界で初めて成功したものである。ホログラムを使用した非常に狭い空間での多層での三次元デバイスの作製は非常に困難であり、今までは実現されていなかった。

(補足1)
フェムト秒レーザーとは、物質を構成する原子分子の1周期振動の時間であるおよそ10-13 秒間に光る極超短パルス光源である。非常に短い時間に発光するために発光パルスのエネルギーはおよそ1012 W/cm2にもなる。このように非常に高いエネルギーのためにガラス内部の照射点では物質の性質が変化する。この変化を利用してデバイスを作製するものである。

(補足2)
図2の左図はイメージ図(設計図)で、その上図は上から見たイメージで2個のボールが対になって上下に並んだ状態で配列されている。図において下側(奥側)を小さく表示しているので下のボールも見える。下図は横から見た図である。右図は実際に加工されたデバイスの顕微鏡写真であり、上側すなわち紙面に垂直方向からレーザー光を照射し加工した。同図の上図は左図の上図に対応するが、真上から見たために下のボールは上のボールの真下にあるために見えない。ホログラムを使用した加工では、このように見えない位置にも三次元加工ができる。下図は横から見た加工(ガラス内部の加工ゆえに透明で写真撮影が困難で見えにくい)で、イメージ図(設計図)とよく一致している。その加工形状から24層24個のボールがらせん状に並んでいるのがわかる。一個のボールは1000分の数ミリメートル程度の大きさである。加工層の間隔は2.5マイクロメートル(1000分の2.5ミリメートル)また、これらのボールは照射レーザー光の光軸(照射方向)に沿って夫々2個が12対で作製されており、レーザー側から見て下の球は上の球の陰になっている。このようにレーザー側からみて陰になる球が一度の照射で上側の球と同時に作製できる。これはホログラム加工の特長で、このために三次元形状を高速で作製できる。
                                         以上

図1 イメージのモデル

図2 イメージ図と加工結果
<図2の説明>
左側の図: イメージ図(設計図)
・上図:上から見たイメージ
     (下方(奥側)を小さく表示しているので下のボールも見える)
・下図:横から見た図

右側の図: 実際に加工した図
・上図:左図の上図に対応するが、真上から見たために下のボールは上のボールの真下にあり、見えない。ホログラムを使用した加工では、このように見えない位置での三次元加工もできる。
・下図:横から見た加工(ガラス内部の加工ゆえに透明で見えにくい)で、イメージ図(設計図)とよく一致している。但し、イメージ図は奥側を小さく表示しているために加工とは若干異なって見える。


2008年2月新聞発表
NEDOプロジェクト 『三次元光デバイス高効率製造技術』
  世界で初めて、「ガラス内部への三次元光導波路の一括形成に成功」
        − NGFつくば研究室でホログラムによる三次元加工を瞬時で実現 −

この度、社団法人ニューガラスフォーラム(NGF)は、経済産業省の国家プロジェクト『<ナノテクノロジープログラム>「三次元光デバイス高効率製造技術」プロジェクト』(新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より受託)において、ホログラムの設計、作製を行なうと共に、作製したガラス・ホログラムを使用してガラス内部に三次元光デバイスの基本である多点や直線や曲線状のデバイスを1パルスの発光時間がおよそ10-13秒であるフェムト秒レーザーで瞬時にして三次元構造を一度に作製することに世界で初めて成功した。加工時間は、従来比 1/1000 の 0.1秒 以下であった。作製は、茨城県つくば市にあるNGFナノガラス研究本部(本部長:上杉勝之)つくば研究室(室長:田中修平)にて鈴木潤一主任研究員等にてなされた。デバイスの内、特に形成が困難とされていた直線形状や曲線形状デバイスも世界に先駆けて作製でき、光情報処理用の光導波路、バイオセンサー用の導波路を始め広い分野での適用が期待できる。詳細は、今年の2月13日から15日まで、東京ビッグサイトで開催される国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2008)、ブース番号 N-13で展示する。

本プロジェクトは、2006年度より5年間の計画で、経済産業省の国家プロジェクト『<材料ナノテクノロジープログラム>「三次元光デバイス高効率製造技術」』として新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より社団法人ニューガラスフォーラム(NGF)、国立大学法人京都大学、浜松ホトニクス株式会社へ委託され、プロジェクトリーダーを京都大学 平尾一之教授が務める。NGFの集中研究室であるつくば研究室には、株式会社オハラ、ライトロン株式会社、フジノン株式会社、大日本印刷株式会社、ナルックス株式会社、及びNGF所属の研究員が研究開発を行なっている。三次元光デバイス高効率製造技術とは、フェムト秒レーザー光をデバイスの情報を書き込んだホログラムを通してガラス内部に照射し、三次元光デバイスを作製するものである。従来の手法では、レンズを使用してフェムト秒レーザー光でスポット照射し、照射部の材料の性質を変えていわゆる異質相を作製し、この異質相の集まりとしてデバイスを作製していた。しかし、従来法では時間もかかり、コスト高ともなる。本プロジェクトでは、ホログラムを通してフェムト秒レーザーの一度の照射で瞬時にデバイスを作製する。従って、従来に比べて、1万倍以上の高速でデバイスを作製でき、製造コストを下げられる。また、一度に作製できるためにレーザービームのゆれやスポットの重なりによる形状の不均一性が無くなり精度のよい加工ができることにより従来に比べて性能の高いデバイスを低コストで作製することができる。
 フェムト秒レーザーによる加工は、スポット加工ではサブミクロンメートルのサイズまで可能なことが確認されている。今回、これ等のデバイスの基本となる点や直線や曲線を三次元で作製できることが世界で初めてNGFで確認できた。特に、ホログラムを使用した直線や曲線の作製は非常に困難であり、今まで実現されていない。実際のデバイスは、これらの点や直線や曲線の組合せで作製することができる。

(参考)フェムト秒レーザーとは、原子分子の1周期振動の時間であるおよそ10-13 秒間に光る極超短パルス光源である。非常に短い時間に発光するために発光パルスのエネルギーはおよそ1012 W/cm2にもなる。この非常に高いエネルギーのためにガラス内部の照射点では物質の性質が変化する。この変化を利用してデバイスを作製するものである。例えば、性質の変化した部分は光を集中的に通過する。


  「三次元光デバイス高効率製造技術」プロジェクトが、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下NEDO)が行う平成18年度国家プロジェクトの公募に提案し採択され、平成18〜22年度にわたる5ヶ年計画の活動を開始しました。

1.プロジェクトの位置付けと成立ちの経緯
 我が国の科学技術政策は、第3期科学技術基本計画のもとに国家的・社会的課題に対応した研究開発においては、4つの分野(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料)に特に重点的、優先的に資源配分を行うとともに、それ以外の4分野(エネルギー、製造技術、社会基盤、フロンティア)については基盤的な領域を重視して推進することを諮問機関の総合科学技術会議が取り纏めています。具体的な技術戦略は、経済産業省及びNEDOが産学官の知見を結集し、新産業の創造やリーディングインダストリーの国際競争力を強化していくために必要な重要技術を絞り込むとともに、それらの技術目標を示し、かつ研究開発以外の関連施策等を一体として進める「技術戦略マップ2006」として策定されています。
 本プロジェクトは、重点4分野のうちのナノテクノロジー・材料分野(光デバイス)において、「光導波路/光伝送/合分波」や「三次元造形/光加工」の技術領域に位置付けられます。前身である「ナノガラス技術」プロジェクトが平成17年度をもって5年間の研究開発を終え多くの期待される成果を上げましたが、そこで蓄積された三次元光回路用材料技術の基盤技術をさらに実用的な加工技術へと発展させるべく、後継プロジェクトとして立ち上げられました。

2.研究開発体制、事業期間、事業予算、及び研究人員等
 NEDOから国立大学法人京都大学、浜松ホトニクス株式会社、及び社団法人ニューガラスフォーラム(以下NGF)が委託を受け、下図の体制で研究開発を行います。この3者は共同研究の連携をとり、前2者は分散研究所として個々の施設で研究を遂行し、NGFは筑波研究コンソーシアム(つくば市)の前ナノガラス技術プロジェクトで設備した研究施設を継続して使用し、ライトロン株式会社、フジノン株式会社、株式会社オハラ、大日本印刷株式会社、ナルックス株式会社、及びNGFらから派遣される研究員で集中研究所を構成します。なお、全体の統括には、国立大学法人京都大学の平尾一之教授がプロジェクトリーダーの任にあたります。事業期間は平成22年度までの5年間で、事業予算総額は約20億円、初年度は3.7億円。関係する研究人員は総勢36名に及びます。

プロジェクト実施体制



3.研究開発の内容
 具体的な研究開発項目は、@ガラス材料、A加工システム、及びB応用デバイスの3点に大別されます。以下、順に内容を説明します。なお、( )内は、主な担当です。

@デバイス化加工用ガラス材料技術(NGF、京都大学)
 ガラスの原子・分子レベルの構造を制御すれば、従来のマクロな構造制御では実現できなかったガラス材料の光学的、電磁気的、機械的及び化学的等の優れた特性や機能を、有効に引き出すことを期待できる。フェムト秒レーザーやイオンや電子ビーム等のような外部場をガラス材料に作用させることによって、母材の組成変化を起こさずに、1〜数百nmレベルの異質相の形状と配列を適正に制御することが可能となる。従って、これらの外部場と相互作用を効率よく行えるガラス材料が必要となるとともに、その材料は作製するデバイスに適用できることが必須の条件となる。具体的達成目標としては、Bで述べる光学ローパスフィルタを目標に、可視光領域でガラス母材と異質相の屈折率差を0.015以上とれる透明なガラス材料を開発する。また、ガラス構成成分と組成比あるいはフェムト秒レーザー照射条件に依存して誘起される様々な構造変化から、Bで同様に述べる三次元光導波路デバイスの作製に有用な構造変化を見極めると共に、その基本回路である直線導波路及び三次元応用デバイスである光カプラ(スプリッタ)導波路デバイスを想定した光回路デバイス用ガラス材料の開発を実施する。

A三次元加工システム技術(NGF、浜松ホトニクス)
 波面制御三次元加工システム技術と空間光変調器三次元加工システム技術の2つのアプローチをとる。まず前者はNGFが担当する。フェムト秒レーザー照射によりガラス内部に各種デバイスを、高精度で高速に作製するにはホログラムを使用して一括で異質相を形成する方法が有効である。これにより、従来の逐次形成法に比べて高精度で高速に三次元的に異質相を一括形成することが可能となる。このための高精度三次元加工システムに必要な光学系、波面制御素子設計用シミュレータ、形状計測技術、等を開発する。特に、直線導波路で9μmの加工をし、加工精度を確認する。
 後者は、浜松ホトニクスが担当する。フェムト秒レーザー照射によりガラス内部に各種デバイスを作成する場合、三次元造形を重ねて順次形状を変化させながら作製する必要が生じる。この技術は、加工精度やレーザービームのin situ情報を盛り込みながら、ホログラムを順次プログラムで変更しながら三次元造形を可能とする加工システムである。これに必要な光学系、位相変調型の液晶空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)、空間光変調器を用いた位相変調技術、等を開発する。
 加工システムとしての目標は、従来比100倍以上の高速加工を実現する。具体的には1パルスのレーザーショットにより、一辺が60μm以上の立方体の中に、直径が10μm以下の球状あるいは棒状の異質相を100個以上形成する。

B「三次元加工システム応用デバイス技術」
 @及びAの技術をもとに、応用デバイスを作製して本三次元加工システムの有効性を実証する。
 一つはNGFが担当し、超薄型で、低コストで製作可能な光学ローパスフィルタを作製する。達成目標は、一括照射で2.5mm角以上の領域に異質相を形成し、フィルタリング方向の無依存性を確認する。これにより、光学ローパスフィルタ機能を、従来の3枚から1枚に削減し、フィルタ厚0.3mm以下の光学ローパスフィルタを実現する。また、従来のローパスフィルタに使用されている水晶での2光軸同士の開き角度は、0.236°であり、本フィルタではこれ以上の開き角度を実現する。また解像度を維持し、モアレを抑制することを確認する。
 二つめは京都大学が担当し、三次元光回路導波路デバイスを作製する。通信や情報処理等、様々なシステムの光ネットワーク化が急速に進展し、本格的な立ち上がりが始まっている光加入者系への各種サービスの早急な対応が求められている今日、低コスト、高性能で光集積化が容易な導波路型の合分岐や合分波器は必須の光デバイスである。ガラスの中に導波路やそれらの結合した三次元光導波路デバイスの一例として光カプラ(スプリッタ)導波路をフェムト秒レーザー照射で作製する。具体的達成目標は、基本的な直線導波路として、シングルモードで光伝搬損失が0.1dB/cm以下(導波路サイズ;直径9μm以下、波長;1.55μm)を実現する。

  
  上図は、以上説明したフェムト秒レーザーを使った三次元形状加工の模式図と期待される出口製品イメージです。これらの技術を確立することによって、近い将来、集積化オプティクスや光情報デバイスなどの有用な光デバイスが効率よく製造可能になることに大きな期待が寄せられています。

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