人類が材料としてガラスを初めて手にしたのは、今から3000年前とも4000年前とも言われている。以来、この透明で美しい材料を人々は生活の中で、様々な形で利用して来た。ガラスの最大の特長はその構成成分(化学組成)の多様性にあり、用途に応じた幾種ものガラス製品が開発され、現代の人々の生活を支えている。ニューガラスフォーラムは1985年の設立以来、ニューガラスと呼ばれるさらに高い機能を持ったガラス製品の開発、普及を後押しするべく様々な活動を展開してきた。ガラスに関する知の凝集物ともいえるデータベース「Interglad」の普及ならびに運営は、まさにその象徴とも呼ぶべきものである。また、国家プロジェクトをベースに開発を行ってきた、ガラスの精密加工技術、革新的な溶解プロセスは、産業界にも大きなインパクトを与えた。さらに機関誌の発行、研究会やセミナーなどの企画・運営を通じて、ニューガラスの啓蒙を促進して来た。これまで35年間当フォーラムを支えて来た先人の絶え間ない努力に、改めて敬意を表する次第である。

 一方で、この35年間で社会を取り巻く環境は大きく変化した。光ファイバーを基幹としたインターネットの世界は拡大の一途を辿り、スマートフォンに代表されるデバイスの登場により、人々はいつでもどこでも、相互に手軽につながることが可能となった。従来人と人とのコミュニケーションを主目的としたこれらの技術は、いまやあらゆるモノをつなぐ形に進化を遂げ、5Gと呼ばれる次世代通信技術を利用することで、クルマの自動運転もまもなく実現しようとしている。スーパーコンピュータの発展、人工知能(AI)の活用も産業に新たなインパクトをもたらし始めている。他方、急激な人口増加やエネルギー需要の増加を背景とした、地球規模での人類の持続可能性を問う声が本格化し、2015年には国連サミットで持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SGDs)が採択された。経済活動を支える企業もSDGsを視野に入れたESG (Environment, Social, Government)投資の観点を無視しては、その存続が危ぶまれる状況が生まれつつある。

 このような社会環境の変化の中にあって、ニューガラスフォーラムもその果たすべき役割りを改めて考える時期にさしかかっているように思われる。時代の要請に応じたニューガラスの世界をどのように発展させるのか。具体的な方策はいくつかあろうが、フォーラム単独で成し遂げられることには限りがあり、産官学を含む関係各所との連携強化は必須であると考えられる。

 材料群の中でも製品の幅が極端に広いガラス産業界では、ニューガラスフォーラムを含む国内6団体による「ガラス産業連合会(GIC)」が組織されている。この中にあってニューガラスフォーラムは日本硝子製品工業会とともに、社団法人として活動している団体であり、GICの各種活動の事務局業務なども担っている。このような機能を強化し、GICの活動が円滑に進むような役割を果たすことは、裏方ではあるが大事な仕事と思われる。今年の12月には東京でAdvances in Fusion and Processing of Glass (AFPG)という会議が開催される。この会議は、これまで米国とドイツの2か国でおよそ3年毎に開催されてきた、溶融技術をはじめとしたガラスのプロセス技術に関する国際会議である。今回は第12回目となるが、はじめて日本での開催の運びとなった。GICのプロセス・材料技術部会がその運営を主導しており、ニューガラスフォーラムも事務局として準備にあたっているので、フォーラムにあっても会員各社をはじめとして、積極的な参加を呼びかける次第である。

 ガラスのアカデミアにあっては今、2018年3月号の機関誌巻頭言で滋賀県立大学の松岡教授が述べておられるように、ガラスの基礎研究に関するアクティビティが低下しているという、危機的状況が叫ばれている。アカデミアは産業界の課題ニーズを常に研究テーマとして求めており、その情報発信がニューガラスフォーラムにも期待されている。日本セラミックス協会(セラ協)などとの連携を深め、産業界とアカデミアの橋渡し役を、従来以上に意識することが必要であろう。上述のAFPGは、セラ協ガラス部会が主催する「ガラスおよびフォトニクス材料討論会」と同時開催されるので、プロセス技術のみならず材料面の最新研究に関する情報交換としても格好の場となるはずである。この合同会議は東京工業大学の矢野教授をヘッドとして「Glass Meeting 2020」と名付けられ、すでにホームページもオープンしている。本会議には海外からも著名な研究者が集うことが予想されるので、国際化を一層進める上でも大きなチャンスとなると思われる。是非以下のURLからその内容を参照頂ければ幸いである。
 http://www.ceramic.or.jp/gm2020/contact.html

 ニューガラスフォーラムは設立以来、経済産業省とも密接なつながりを持ち、ある時は国家プロジェクトの運営母体としても活動を行ってきた。今現在、大型のプロジェクトは稼働している状況にないが、経済産業省の中では、材料技術こそは日本のお家芸、という声が根強くあるという話も聞く。公的研究機関との連携を深める中で、冒頭に述べた社会情勢の変化にマッチした新しい国家プロジェクト級の大型テーマの発掘にも、フォーラムの総力を挙げて取り組むことを期待したい。

 以上、会長就任のご挨拶として、関係者へのご協力願いを中心に述べさせて頂いた。末筆になるが、本原稿を執筆している2020年5月現在、新型コロナウィルスが世界中で猛威を奮い、多大な影響が及んでいる。重篤な患者や死亡者数の増加が憂慮されるのはもちろんのこと、感染拡大を防止するために人々の活動は大きな制約を受けており、世界経済への打撃が深刻化している。社会として一致団結し、この人類への脅威に対して立ち向かい、事態が一日も早く終息することを願ってやまない。

一般社団法人 ニューガラスフォーラム会長
AGC株式会社
    取締役会長   島 村  琢 哉

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