新溶解技術プロジェクト
 NEDO研究開発機構「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発」事業における「直接ガラス化による革新的省エネルギーガラス溶解技術」プロジェクトが、平成17年度から19年度の3年間にわたり実施されました。

<背景>
 板ガラス、ガラスびん、繊維ガラス、CRTガラスを始め平面ディスプレイ用ガラスに至るまで、全世界の量産規模のガラスはF. Siemensが1860年に発明した溶融炉に基づいて生産されており、140年以上にわたり革新を経験してきませんでした。しかし、地球環境問題がクローズアップされ、京都議定書が採択された今、国内全産業の消費エネルギーの1%を占めるガラス産業にとって、昨今の原油価格の高騰も相俟って、省エネへの取り組みは避けて通れない課題となっています。
 ガラス製造プロセスは長い年を経て技術的に洗練され、エネルギー効率の面でも決して他産業に見劣りするものではありません。しかし、平面ディスプレイ用ガラスに代表されるように、ガラスに求められる品質は年々高度化し、気泡や未溶解欠点を含む多量の不良ガラスが製造プロセス内で再度溶かされてエネルギーが浪費されているといった現実があります。工程内リサイクルを考慮した正味歩留りは、ガラス産業全体で平均72%前後(GIC内部資料による)であり、ディスプレイ用等はこの数値をかなり下回っているものと推定されます。さらに、歩留りが100%であったとしても、溶融プロセスのエネルギー効率は30%前後にとどまっています。これはガラスの均質化・脱泡などのためガラス融液を長時間にわたり高温度に保たなければならないためです。
 消費エネルギーの大幅な低減を可能にする革新的技術が登場する余地は十分にあり、我が国が率先してこれに取り組むことが国際的優位性維持のため不可欠といえます。

<プロジェクトの概要>
 ガラス製品の多くは1〜6日間程度の長時間にわたる溶融を経て製造されます。それは未溶解欠点の解消、気泡の除去、組成の均質化などに長時間の溶融が必要なためです。しかし、ルツボによる少量のガラス試作においては、1時間前後の高温保持で未溶解欠点や気泡のない均質なガラスを得ることができ、原理的にガラス製造に長時間が必要なわけではありません。実炉とルツボとの差異が何に基づいているか、明確なところはまだ定かではありません。
 両者の差異が原料溶解の初期段階で生じているものとの推定に基づき、このプロジェクトでは特に未溶解欠点と均質化に着目しました。すなわち、実炉に投入された原料は融液上で時間をかけてゆっくりと昇温・反応し溶解し融液化するが、その溶け方は均質ではない。ソーダ石灰ガラスを例にとると、ソーダ灰や清澄剤は先に融液化して沈降し、珪砂は取り残され、その中には互いに集合・凝集してますます溶けにくい珪砂の集合体となるものが生ずる。この集合体の生成が未溶解欠点解消の長時間化をもたらすと考えました。珪砂をある程度細かくし、かつ、溶解過程で珪砂同士が直接接触しないように、十分な量のソーダ成分等で珪砂を覆うことができれば、溶解は短時間のうちに完結し、粗溶融過程の短時間化が実現できるはずです。
 問題はその具体的手段です。珪砂をソーダ成分等で覆った原料であっても、現行炉に投入したのでは、やはり、ゆっくり温度上昇する過程で不均質な溶解が生じ、珪砂リッチの集合体形成は避けられません。これを回避するために採用した方法が、気中加熱です(図)。原料は微粉化、均質混合されて1mm以下の細かな粒子状に成形されます。原料粒子は飛翔中加熱・分解され、融液着地後も所定温度まで加熱されます。珪砂は十分な量のソーダ成分等で覆われてから着地するため、珪砂リッチの集合体は生じにくく、珪砂溶解の短時間化と溶解初期での組成均質化が達成されます。今回のプロジェクト名の「直接ガラス化」は、鉄鉱石等の原料を微粉化・混合し固相反応により鉄鋼を製造する「直接還元」にちなみ名付けましたが、「気中溶解」の呼び名の方がわかりやすいかも知れません。
 原料中の炭酸塩からの分解ガスの放出や水分の蒸発は気中加熱時にほぼ完了し、ガラス中の気泡は融液着地後の昇温と機能分離型清澄槽において除去されます。機能分離型清澄技術やカレット併用に不可欠な融液の強制撹拌技術は、多額の研究開発費用を必要とすることと、今回のNEDO予算が先導的研究を対象としていることから、本プロジェクトでは除外しました。



<開発体制>
 プロジェクトの研究開発体制は図の通り、初めの2年間は10機関、3年度目は5機関で行われました。ガラス産業連合会GICのプロセス技術部会主査である井上悟リーダー(物質・材料研究機構)のもとに、東京工業大学の3研究室、旭硝子、東洋ガラス、物質・材料研究機構およびニューガラスフォーラムの5機関と、再委託先として東京理科大学、東洋大学、HOYAおよび光ガラス、共同実施先としてセントラル硝子が参画し、それぞれが保有する技術ポテンシャルをフルに発揮して効率的に研究開発を進めました。
  平成17年度〜18年度の体制



  平成19年度の体制



 下図は、その研究開発スケジュールです。
 気中加熱技術を軸に、原料技術である造粒溶解技術、実機を想定した試験などのスケールアップ技術1(ハード)およびシミュレーション技術によるスケールアップ技術2(ソフト)などの開発を進めました。



<予算>
 平成17年度 : 総額 1億円
 平成18年度 : 総額 1億円 + 9800万円
 平成19年度 : 総額 1億900万円
<研究成果>
このプロジェクトの詳しい研究成果は下記の発表をご覧ください。
(1)投稿論文
1) Md. M. Hossain, Yaochun Yao, Yasuko Oyamatsu, Takayuki Watanabe, Fuji Funabiki and Tetsuji Yano, “Determination of the Melting Mechanism of Granular Powders for Vitrification by Argon-Oxygen Induction Thermal Plasma”, WSEAS Trans on Heat and Mass Transfer Issue 6, 1 (2006) 625.
2) Yaochun Yao, Md. Mofazzal Hossain, Yasuko Oyamatsu, Takayuki Watanabe, Fuji Funabiki, and Tetsuya Yano, “In-Flight Melting of Granulated Powders in Thermal Plasmas for Glass Production”, Transactions of Materials Research Society of Japan, 32(2) (2007) 509-512.
3) M. M. Hossain, Y. Yao, T. Watanabe, F. Funabiki, T. Yano, “In-flight-melting mechanism of soda-lime-silica glass powders for glass production by argon-oxygen induction thermal plasmas”, J. Materials Reearch, to be pubrished.
4) Yaochun Yao, M. Mofazzal Hossain, Takayuki Watanabe, Tomoyuki Tsujimura, Fuji Funabiki and Tetsuji Yano, “Effects of feed rate and particle size on the in-flight melting behavior of granulated powders in induction thermal plasmas”, Thin Solid Film, 516 (2008) 6622-6627.
5) Y. Yao, T. Watanabe, T. Yano, T. Iseda, O. Sakamoto, M. Iwamoto, S. Inoue, “An innovative energy-saving in-flight melting technology and its application in glass production”, Science and Technology for Advanced Materials, 9 (2008) 025013 (8pp).
6) Y. Yao, M. M. Hossain, T. Watanabe, T. Matsuura, F. Funabiki, T. Yano, “A multi-phase ac arc discharge and its application in in-flight thermal treatment of raw glass powders”, Chemical Engineering Journal 139 (2008) 390-397.
7) Fuji Funabiki, Tetsuji Yano, Yaochun Yao, Takayuki Watanabe, “In-Flight-Melted Soda-Lime-Silica Glass by RF Induction Thermal Plasma”, J. Amer. Ceram. Soc. 91(2008) 3908-3914.

(2)NEDO報告書
1) エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発/直接ガラス化による革新的省エネルギーガラス溶解技術の研究開発 平成17〜19年度成果報告書(平成20年3月)

(3)学会発表
1) 由川格、佐藤勲、斉藤卓志、川口達也、「エネルギー削減を目指した原料の気中予備溶解によるガラス溶融過程の検討」、第43回日本伝熱シンポジウム(日本伝熱学会)2006年5月31〜2日(名古屋国際会議場)
2) 柿崎亜美、大垣武、安盛敦雄、轟眞市、井上悟、田中千禾夫、「気中ガラス溶解プロセスに用いる顆粒状原料の反応挙動」、日本セラミックス協会第22回関東支部研究発表会、2006年7月20〜21日(長野県戸倉)
3) 辻村知之、酒本修、田中千禾夫、「微粒造粒原料を用いたソーダ石灰ガラスの溶解性」、第47回ガラスおよびフォトニクス材料討論会(日本セラミックス協会ガラス部会)2006年11月21〜22日(東京理科大)
4) 親松泰子、姚耀春、渡辺隆行、船曳富士、矢野哲司、「エネルギー削減のための高周波熱プラズマによるガラス原料粒子のインフライト溶融」、化学工学会第38回秋季大会、2006年9月16〜18日(福岡大学)
5) 渡辺隆行、親松泰子、姚耀春、Md. M. Hossain、船曳富士、矢野哲司、「高周波熱プラズマを用いたインフライト溶融によるガラス製造」、無機マテリアル学会第113回学術講演会、2006年11月9〜10日(名古屋大学)
6) 船曳富士、矢野哲司、田中千禾夫、姚耀春、渡辺隆行、「プラズマを用いたインフライト溶融により生成したガラス粒子のキャラクタリゼーション」、第47回ガラスおよびフォトニクス材料討論会(日本セラミックス協会ガラス部会)2006年11月21〜22日(東京理科大)
7) 船曳富士、矢野哲司、田中千禾夫、姚耀春、渡辺隆行、「プラズマを利用したガラス原料のインフライト溶融とガラス化反応」、第47回ガラスおよびフォトニクス材料討論会(日本セラミックス協会ガラス部会)2006年11月21〜22日(東京理科大)
8) Yaochun Yao, Md. M. Hossain, Yasuko Oyamatsu, Takayuki Watanabe, Fuji Funabiki and Tetsuji Yano、「In-flight Melting of Granulated Powders in Thermal Plasmas for Glass Production」、第17回日本MRS学術シンポジウム、2006年12月8-10日(日本大学)
9) Md. Mofazzal Hossain, Yaochun Yao, Yasuko Oyamatsu, Takayuki, Watanabe, Fuji Funabiki, and Tetsuya Yano、「Numerical and Experimental Investigation to the Melting Mechanism of Granular Powders for Vitrification by Induction Thermal Plasmas」、4th WSEAS International Conference on HEAT and MASS TRANSFER (HMT'07) 、January 17-19, 2007 (Gold Coast, Australia)
10) 井上悟、「非シーメンス炉型ガラス溶融技術について」、2006年度ガラス製造技術講演会(日本セラミックス協会ガラス部会)、2007年1月26日
11) 渡辺隆行、親松泰子、姚耀春、船曳富士、矢野哲司、「エネルギー削減のための熱プラズマによるガラス原料粒子のインフライト溶融」、化学工学会年会、2007年3月19〜21日(京都大学)
12) Yaochun Yao, M. Mofazzal Hossain, Takayuki Watanabe, Tomoyuki Tsujimura, Fuji Funabiki, Tetsuji Yano、「Effects of Feed Rate and Particle Size on the In-flight Melting Behavior of Granulated Powders in Induction Thermal Plasmas」、第20回プラズマ材料科学シンポジウム(日本学術振興会第153委員会)、2007年6月21-22日(名古屋大学)
13) F. Funabiki, T. Yano, C. Tanaka, Y. Yao, T. Watanabe、"In-flight melting of granulated raw materials of soda-lime-silica glass by thermal plasma"、XXI-International Conference on Glass、July 1-6, 2007 (Strasburg, France)
14)T. Tsujimura O. Sakamoto, C. Tanaka、"The Melting Behavior of The Soda-Lime Silicate Glass By Using Granulated Fine Materials"、XXI-International Conference on Glass、July 1-6, 2007 (Strasburg, France)
15) T. Watanabe, Y. Yao, T. Yano, T. Iseda, O. Sakamoto, M. Iwamoto, S. Inoue、"Innovative in-flight glass melting technology using thermal plasmas"、18th International Symposium on Plasma Chemistry、2007年8月26-31日(京都大学)
16) Y. Yao, Y. Oyamatsu, T. Watanabe, F. Funabiki, T. Yano、"In-flight melting of grenulated powders in multi-phase arc for glass production"、18th International Symposium on Plasma Chemistry、2007年8月26-31日(京都大学)
17) M. M. Hossain, Y. Yano, Y. Oyamatsu, T. Watanabe, F. Funabiki, T. Yano、"In-flight melting mechnism of granulated powders for glass productionby argon-oxygen induction thermal plasmas"、18th International Symposium on Plasma Chemistry、2007年8月26-31日(京都大学)
18) M. Mofazzal Hossain, Yaochun Yao and Takayuki Watanabe、"A numerical study of plasma-particle energy exchange dynamics in induction thermal plasmas for glassification"、MST07 (Materials Sceince & Technology)、Sept. 16-20, 2007(Detroit, USA)
19) Y. Yao, M. M. Hossain, Y. Oyamatsu, T. Watanabe, F. Funabiki and T. Yano、"PLASMA-PARTICLE HEAT TRANSFER MECHANISM FOR IN-FLIGHT MELTING OF POWDERS IN INDUCTION THERMAL PLASMAS"、1st Asian Symposium on Computational Heat Transfer and Fluid Flow、October 18-21, 2007(Xi'an, China)
20) 矢野哲司、渡辺隆行、伊勢田徹、酒本修、佐藤敬蔵、井上悟, 「インフライト溶融を用いた革新的省エネルギーガラス溶解技術の研究開発」、ガラスおよびフォトニクス材料討論会(豊橋技科大)2007年11月29〜30日
21) 辻村知之、鈴木祐一、田中千禾夫、酒本修,「微粒造粒原料を用いたソーダ石灰ガラスの溶解性」、ガラスおよびフォトニクス材料討論会(豊橋技科大)2007年11月29〜30日
22) 八田和之、姚 耀春、渡辺隆行、松浦次雄、船曳富士、矢野哲司、「多相アークを用いたガラス原料のインフライト溶融」、化学工学会第73年会研究発表講演 (静岡大学) 2008年3月17〜19日

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