若手懇談会前回の講演会
第136回講演会報告

第136回若手懇談会開催報告

【日時】2019年10月15日(金)14時00分〜17時00分
【場所】日本ガラス工業センター
【テーマ】ガラスと次世代の技術 −医療を支えるガラス−

[講演1]「深部がんの血管内治療に用いられる微小球」

東京医科歯科大学 川下 将一(カワシタ マサカズ)先生

 がんの血管内治療に用いられる微小球の合成方法についてご講演いただきました。 はじめにがんの3大治療法として、外科療法、放射線療法、化学療法があることをご紹介 いただき、体外から放射線を照射する治療法では体表面へのダメージが大きく、深部のがん に対して十分な強度の放射線を当てることが難しいという点についてご説明いただきまし た。肝臓がんなどの深部のがんに対しては、放射性イットリウムを含有した微小球を患部に 注入することにより、がん細胞を死滅させる治療法が効果的であり、より多量のイットリウ ムを含む微小球が求められているとのことです。 この課題に対し、高周波誘導プラズマ法を用いて25μm程度の酸化イットリウムの微小 球を作製することで、より長期間に渡って患部に治療効果を与えることが可能になったと のことです。 また、シリカの微小球を核として酸化鉄(Fe3O4)を表面に結晶化させることで、温熱療 法に使用可能な磁性微小球を作製可能な点についても言及いただきました。 がんという身近になりつつある病気に対し、効果の高い治療法とのことで、今後の実用化 が待ち望ましいご講演でした。

川下先生ご講演



[講演2]「ガラス製マイクロ流体チップの開発と生命科学への展開」

理化学研究所  田中 陽(タナカ ヨウ)先生

 細胞や分子の解析に用いられるガラス製マイクロ流体チップの作製技術についてご講演 いただきました。 主流のマイクロ流体チップ材料であるポリジメチルシロキサン(PDMS)は、加工が容易 かつ安価であるものの、化学耐性や物理耐性が低いという短所があり、これらの耐性が必要 となる用途では、ガラス製マイクロ流体チップが用いられているとのことです。 ガラス製マイクロ流体チップは基板ガラスにフォトリソグラフィを用いて溝を形成し、 蓋をするようにカバーガラスを接合することで、密閉した流路を作製するとのことです。従 来からの熱融着を用いた接合法では、摂氏500 度以上の温度に加熱する必要があり、電極等のパターニングが機能を失ってしまう問題がありました。提案手法ではフッ素コートを 用いることで、表面洗浄と圧力のみで常温接合可能であり、パターニングの機能を損なうこ となく実用的な強度と密閉性を実現可能であるという点についてご説明いただきました。 また、マイクロチップの作製技術を応用したマイクロレンズアレイやガラス発電機につ いても言及いただき、今後の応用展開が楽しみなご講演でした。

田中先生ご講演



[講演3]「バイオ医薬品用バイアルの開発」

ニプロ株式会社 和田 正道(ワダ マサミチ)先生

 バイオ医薬品用バイアルVIALEXの製造技術についてご講演いただきました。 はじめにバイオ医薬品は1998 年以降に開発の始まった比較的新しい薬剤であるという 基礎についてご説明いただき、2010 年にはバイアル内表面の剥離を原因とする薬液汚染に よるリコールが世界的な問題となった点について言及いただきました。 このバイアル内表面の剥離の原因は、原材料であるホウケイ酸ガラス管を二次加工する 際に、高温となったガラスから揮発したアルカリホウ酸塩の蒸気がバイアル内表面の底部 近くに凝縮し、ガラスに蒸着することにより加工劣化域を形成することによるものだそう です。 この問題に対し、VIALEXではバイアル内表面にプラズマ(H3O+)を照射することで加 工劣化域を除去し、バイアル評価法であるUSP<1660>を満たすバイアルの製造を可能に したとのことです。 医療現場で実際に使用されている製品の製造技術ということで非常に興味深いご講演で した。

和田先生ご講演





今回「医療を支えるガラス」というテーマでご講演頂きました。命に関わる医療で利用さ れている技術や、これからの実用化が期待される技術など興味深い講演を拝聴でき、大変勉 強になる会となりました。また、本会を良い交流の場としてご活用いただきましたことに感 謝いたします。今後ともNGF若手懇談会をよろしくお願い致します。


以上

2019年10月16日 NGF若手懇談会 副会長 池田 拓朗
副会長 藤原 卓磨

 

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