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第141回講演会報告 第141回若手懇談会開催報告
[講演1]「機能性ガラスへのアプローチ -材料デザイン工学の視点から-」 愛媛大学 大学院理工学研究科 物質生命工学専攻 機能材料工学コース 教授、 工学博士 武部 博倫(タケベ ヒロミチ) 先生 材料デザイン工学(組成・構造・特性)の視点から、機能性ガラスを研究・開発する考え方についてご講演いただきました。 最初に、ガラスをデザインする上で考慮すべきパラメータを特性(密度や熱的、化学的特性等)と微視的構造(電子構造や結晶構造)の2つに分類しまとめて頂きました。実例として酸化物ガラスを注目した場合、組成パラメータは「陽イオンと酸化物イオン間の相互作用」「空隙を表すパラメータ」を考えなければならず、具体的には、イオン結合によるクーロン引力やイオン充填率、O/M(M=Si, P, B)を挙げていただきました。特に、輻射遷移確率とイオン充填率の関係があるガラスと、関係が見られないガラスがあるそうです。その点を、Ndイオンの局所構造や吸収スペクトルから解説頂きました。また、borate系の高屈折率・低分散性であることも、イオン充填率の観点から説明されました。加えて、光弾性定数と屈折率の関係から、光弾性ゼロの鉛フリーガラス開発のお話をして頂きました。 最近の研究として、「銅スラグの潜在的応用」「放射性廃棄物減容化プロジェクト」「太陽電池パネルガラスのリサイクル」のテーマも紹介いただき、機能性ガラスの可能性を再認識した講演でした。 [講演2]「化学強化ガラスにおけるラマン分光と局所応力評価式の構築」 東北大学 大学院工学研究科 藤原研究室 助教、JSTさきがけ 熱制御領域 研究員(兼任) 寺門 信明(テラカド ノブアキ) 先生 化学強化ガラスの圧縮応力を、顕微ラマンスペクトルと”Stuffing model”を用いて非破壊かつ非接触で局所評価する方法についてご講演いただきました。 スマホ所有率が伸びる中、落としても割れない化学強化(アルカリイオン交換)ガラスへの関心が高まっています。ガラスは傷への応力集中で割れる為、ガラスを強化するには面内圧縮応力を予め加えておく必要があるとのことです。圧縮応力は、光弾性法によって測定されることが多いですが、光導波領域の空間的な平均的な値になっている為、局所値に対応できない問題があります。そこで、顕微ラマン分光(共焦点系)を用いて測定したラマンスペクトルから求める方法を、解説頂きました。具体的には、圧縮応力の式において、イオン交換による部分と構造緩和の部分に分けて考え、ラマンスペクトルから未定係数を決定する流れについて、ご説明頂きました。こちらの手法のメリットは、ガラス形状や観測点を選ばずにイオン交換率sや構造緩和率rをもとに応力のピンポイント評価が可能なことだそうです。今後は、熱強化ガラスや高圧曲げ応力下など他材料への応用可能性やより強いガラスの作製指針を示せるのではないかということでした。 化学強化ガラスの評価方法と現状の課題と解決策についてだけでなく、圧縮応力を定式化していくプロセスは、大変興味深い講演でした。 [講演3]「結晶化ガラスによる酸化物全固体電池の創製」 長岡技術科学大学 物質材料工学専攻 准教授、工学博士 本間 剛(ホンマ ツヨシ) 先生 リン酸系結晶化ガラスの特徴と、全固体電池開発の取り組みについて、ご講演頂きました。 近年リチウムイオン電池は多く用いられているが、「需要が増加しており、資源価格が乱高下」「電解質が液体(液漏れ・電解液の分解による電圧の限界)」など課題があり、より安全な全固体電池の開発が求められているそうです。 電池開発におけるガラスの特徴は、「組成設計がチューナブル」「レーザー誘起結晶化」「ガラス化」「固定電解質との接合」「低密度」「結晶化による機能実現」であることを挙げて頂きました。電池の全固体化には硫化物や酸化物が候補になるが、まだ酸化物は加圧成形など特殊なプロセスを踏んでやっと導電するレベルだそうです。また、ガラスの軟化流動によって活物質と固体電解質の一体化を実現し、過充電に対して高い安定性を示したという説明をされていました。 最近の研究として、レーザーにより正極活物質と固体電解質を一体化する手法を取り上げられました。焼成による一体化は接合界面において熱物性のマッチングが難しい背景があります。そこで、レーザー照射により一体化し、全固体電池の創製に成功したとのことでした。 先生もおっしゃっていましたが、酸化物固体電池にとって、結晶化ガラスはキーマテリアルであり、ガラス材料研究開発者のモチベーションになる講演になりました。 今回「ガラスの高機能化」というテーマでご講演頂きました。材料デザイン工学視点から機能性ガラスを俯瞰することができました。更に、最近ホットな化学強化ガラスや全固体電池の創製といったテーマを聴講でき、研究者としてとても勉強になる会になりました。ご講演いただきました先生方に感謝いたします。また、前回に引き続き今回もweb開催となり、本会の目的の一つである懇親会を開催できなかったことを残念に思いますが、無事に終了することができました。準備を進めていただいた皆様に感謝いたします。今後ともNGF若手懇談会をよろしくお願いいたします。
以上 |
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