若手懇談会前回の講演会
第142回講演会報告

第142回若手懇談会開催報告

【日時】2021年5月17日(月)13時50分〜16時45分
【場所】Microsoft Teams を使用したWeb開催
【テーマ】光学ガラスの基礎

[講演1]「光学ガラスの基礎」

株式会社住田光学ガラス 専務取締役
沢登 成人(サワノボリ ナルヒト) 先生

 多種類の光学ガラスを屈折率で分類するアッベダイアグラムによる組成的特徴・光学的物性についてご講演頂きました。 まず、光学ガラスのデータシートには、様々な屈折率関係のパラメータ(波長毎の屈折率、屈折率の差、屈折率の温度係数など)が記載されている事をご説明頂きました。ガラスの屈折率は、分極率の大きなイオンを多く含むほど高く、波長分散は、紫外部吸収の位置と大きさで決まるそうです。続いて、アッベダイアグラムから光学ガラスの種類が多いことを示して頂きました。これは、レンズ設計では色収差という避けられない問題があり、解決策として様々な光学ガラスでできたレンズを組み合わせる為だそうです。具体的な解決策として、2枚のレンズの焦点距離、アッベ数からの色消しレンズ設計方法、更に色消し波長範囲を加える方法も解説頂きました。 光学ガラスレンズの製造プロセスについてもお話し頂きました。光学ガラスも一般的のガラス製造プロセスと基本的には同じですが、均質で、レンズの面・形状精度が厳しいところがポイントだそうです。非球面レンズ開発を目指すべく、金型材料の開発やモールド成形技術、モールド成形に求められるガラス開発、プリフォーム作製技術もご説明頂きました。 これからの光学ガラスに求められることとして、「機器設計上有利な高屈折率・低分散ガラス」と「レンズ系の枚数を減らす背景から、非球面モールドレンズ用ガラス」を挙げて頂きました。光学ガラスの基礎・製造プロセス・今後の方向性まで俯瞰的にご講演頂き、大変勉強になる講演でした。




[講演2]「ガラスの透明性について−赤外透過ガラスを例として−」

京都工芸繊維大学 材料化学系 教授 工学博士 
角野 広平(カドノ コウヘイ) 先生

  ガラスがなぜ透明であり、どのような光を透過するのかについて、光と物質の相互作用からご講演頂きました。 はじめに、透明性に影響する要因である“吸収“について、お話し頂きました。SiO2、Sulfide系などのガラスや結晶の透過スペクトルは、可視光や近赤外域は透過しますが、短波長側では電子励起による吸収、長波長側は振動励起(双極子モーメント)による吸収が起こります。ご講演では、波動方程式から光吸収の現象論やパラメータを明らかにして頂きました。その中でまず、短波長側吸収端に着目し、具体的にはSiO2を例として、価電子帯から伝導体への電子励起する過程を解説頂きました。また、アルカリ酸化物が添加された場合、非架橋酸素の2p軌道が高エネルギー側に形成され、価電子帯を高エネルギー側に引き上げ、短波長吸収端は長波長側にシフトするそうです。講演では、その他鉄、希土類イオンの電子遷移による吸収や、金属コロイドによるガラスの着色についてもご説明頂きました。次に、長波長側吸収端の要因をイオン間の振動から説明頂きました。 最後に赤外線を透過するガラスの観点から、各加工物のおおよその透明波長範囲や、大気の窓(大気中の影響を受けない領域)をカバーするGeをGa系に置き換えたガラスをご紹介頂きました。 ガラスの透明性を理論的かつ体系的に学ぶことができ、近年赤外線カメラ等でニーズが高まっている赤外透過ガラスを取り上げて頂き、興味深い講演となりました。




[講演3]「結晶化と構造制御による光機能性ガラスの創成」

産業技術総合研究所 ナノ材料研究部門 主任研究員 工学博士
篠崎 健二(シノザキ ケンジ) 先生

 結晶化ガラス・光機能ガラスの研究についてご講演頂きました。ガラスはランダム構造で物性の特異点や構造に由来する機能性が出現しない問題があります。したがってガラスの結晶化の制御が試みられるようになったそうです。結晶化ガラスは耐火性の窓や宇宙用の望遠鏡などで使われています。 最初に、ガラスの結晶化の様子をTTT図によりご説明頂き、2つのガラスの核形成モデルについてご紹介頂きました。古典モデルはシンプルな式ですが、実際の核形成速度とは数桁のズレがある問題があるそうです。解決方法として、TwoStepモデル(結晶と類似したゆらぎ(微構造)を核形成のパスとして考えることで、核形成促進を再現したもの)を挙げて頂きました。 次にアップコンバージョンナノ結晶化ガラスについてお話し頂きました。アップコンバージョン材料は、錯体、複合型、CNTなどありますが、中でも無機系(結晶、ガラス)は波長シフト量が大きく、比較的広帯域であるというメリットがあるそうです。一方で、高エネルギー密度が必要で、ガラスの場合はフォノンエネルギーが高く低効率という欠点があります。ガラスは巨視的にみると充填されていますが、ナノスケールでは必ずゆらぎ(組成・密度・構造ゆらぎ)が存在し、これらのゆらぎが存在することでエネルギー障壁は顕著に減少するそうです。そこで、核形成をコントロール・ナノ結晶が可能な超高速の核形成を実現する研究についてご説明頂きました。具体的にはBaF2-ZnO-B2O3のアップコンバージョンを調べる実験をご紹介いただきました。通常ホウ酸ガラスはアップコンバージョンを示しませんが、ZnOの量を増やすとアップコンバージョンを示すことが確認できたそうです。その理由をエンタルピー・分子構造の観点と、分子動力学シミュレーションの両方からご説明頂きました。最後に、「ガラスの高速ナノ結晶化の様子」「希土類イオンの効果」「実際の微小球生成の様子」についてもご紹介いただき、非常に内容の濃い講演となりました。






今回「光学ガラスの最新研究」というテーマでご講演頂きました。まず、光学ガラスの基礎をデータシートから丁寧に解説頂きました。次にガラスの透明性について理論的な視点から再確認する事ができ、需要が高まってきている赤外透過ガラスの基本的な考え方も学ぶことができました。最後に、結晶化ガラス・アップコンバージョンについて、TTT図や実験からご説明頂きました。全体として、ガラスの研究者・製造プロセス開発者共に、とても勉強になる会になりました。ご講演いただきました先生方に感謝いたします。また、今回もweb開催となり、終了後の懇談会ができなかったことを残念に思いますが、講演最後には皆様から多数の質問を頂き、とても良い雰囲気の会となりました。積極的な姿勢で若手懇に参加頂き、誠にありがとうございました。今後ともNGF若手懇談会をよろしくお願いいたします。


以上

2021年5月17日 NGF若手懇談会 副会長 嶋崎 俊輔
副会長 森田 陽子

 

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