若手懇談会前回の講演会
第143回講演会報告

第143回若手懇談会開催報告

【日時】2021年10月4日(月)14時00分〜17時15分
【場所】Microsoft Teams を使用したWeb開催
【テーマ】ガラス構造と解析技術

[講演1]「ガラスの構造と解析技術」

滋賀大学 教育学部 教授
徳田 陽明(トクダ ヨウメイ) 先生

ガラスの構造・解析技術の基礎についてご講演頂きました。加えて、構造解析に関する研究動向や、ガラス研究への機械学習の適用といった応用についても解説頂きました。  まず、ガラスの転移現象、結晶構造、ハローパターンについてご説明頂きました。ガラスの構造解析は、短距離構造(Si-O結合距離・結晶と類似)や、中距離構造(短距離構造の連結した構造・3員環)を知ることがポイントだそうです。短距離構造の主成分は結合距離・結合角・配位数であり、微量成分はダングリングボンド、ペルオキシド構造になります。主成分は光吸収(色)や結晶化挙動に関係し、微量成分は光吸収に関係するそうです。中距離構造は、環構造や鎖構造、第二配位元素の種類が関係します。これらの構造は粘性や弾性、硝子転移温度に影響します。構造解析によって機能向上した実例として、光ファイバの低損失化をご紹介頂きました。  次に、構造解析法をご説明頂きました。構造分析は、電子と電磁波との相互作用によって検出します。結晶の場合は、面間隔が明確であるので鋭いピークが立ち、ガラスの場合は面が定義されないので、ハローパターンになるとのことです。また、X線と中性子線は、回折しやすい元素が違うので、相補的に利用することを説明頂きました。このような分析は、放射光施設を利用することも多いようです。特徴としては、「微量元素、微量サンプルでも可能」「元素毎の情報」「短い測定時間」があります。続いて、エネルギー準位と電磁波の吸収についてご説明頂き、価電子の電子遷移は可視・紫外、内核の電子遷移は深紫外・X線、振動遷移は赤外線など、電磁波の種類と吸収について整理して解説頂きました。また、ベール・ランベルト則から吸収スペクトル(の縦軸の面積)は、構造の数に比例している事を示して頂きました。更に、IRとラマン散乱について解説頂きました。IRは、振動準位間の直接的な遷移を観察し、電気双極子モーメントの変化に応答します。それに対してラマン散乱は、仮想準位を介した遷移を観察し、分極率の変化に応答します。IRとラマン散乱の違いは、IRは非対称伸縮や曲げモードは反応し、ラマン散乱は対称伸縮に応答するので、これらは相補的に用いることができます。続いて、特定元素の吸収を利用(元素選択的)するX線吸収分光法やNMR(核磁気共鳴)についてお話し頂きました。NMRは、各スピンと磁場の相互作用から、核の電子状態を明らかにするもので適用範囲は広いとの事です。特徴は、核の電子状態(配位数、結合状態)、特定元素の情報(多成分系への応用が可能)、パルス操作が可能(ある状態の核の情報を取り出せる)ことになります。 構造解析法の計算機利用についても解説頂きました。電子の挙動によるものとして、「量子化学計算」「第一原理計算」、原子の運動によるものとして「分子動力学法」、統計力学的な手法として、「モンテカルロ法」に分類されます。また、これらの手法をハイブリッドで用いることもあるそうです。構造解析のコツとして、INTERGLAD等のデータベースの利用、実験手法、物理化学に習熟することといったアドバイスを頂きました。 最後に、ガラス物性を機械学習で推測する方法について講義頂きました。近年機械学習はデータ量の増加やコンピュータ性能の向上、解析アルゴリズムの充実化、行列計算のパッケージ化から飛躍的に進んでいます。様々な機械学習手法の中でも材料科学で役に立つのは、回帰と考えられ、最小二乗法、重回帰分析、カーネル多変量解析をご紹介いただきました。実例としてガラスの組成からアッベ数をカーネルリッジ回帰予測する方法をご説明頂きました。ガラスの構造と解析技術全般について、幅広くご解説頂き、若手研究者にとっては大変勉強になる講演でした。  




[講演2]「ラマンスペクトルによる高温ガラス融体の構造解析」

東京工業大学 物質理工学院 材料系 教授 工学博士 
矢野 哲司(ヤノ テツジ) 先生

  高温ガラス融体の構造解析の重要性と可能性について、高温ラマン分光法を中心にご講演頂きました。  はじめに、フッ化物ガラスの物性を非平衡分子動力学法でシミュレーションした結果を紹介頂きました。分子動力学法(MD法)に比べて長い緩和時間領域となりますが、粘度温度特性を再現でき、融体構造と粘度の関係性を示すことができるアプリケーションであると判断されたそうです。その研究過程で、“実際のガラス構造“を捉えていかなければならないと考え、In situなラマン分光法で構造を調査する方針に転換されたそうです。当時、ガラス融体の構造解析手法があまりなく、独自で高温ラマン分光装置を構築したとのことで、ナノ秒パルスレーザーによって短時間かつ高S/N比のスペクトルを取得し、室温から1650oCまで評価できるシステムを構築したとのことです。高温融体では、構造が高速で交換振動しています。一般的な構造解析法であるNMR分光法では、スピン緩和速度が交換速度よりも遅くSiO4四面体のQn情報が消失してしまいますが、高温ラマン分光法は、交換速度より十分小さいフェムト秒オーダーの分光法のため、スナップショットのようにQn情報を読み取ることができるそうです。ラマン分光法の利点は「種々の状態に適用可能(気、液、固、高温、高圧)」「振動分光であるため構造決定が比較的容易」であり、それに対して欠点は「散乱断面積が不明であるため、振動種の絶対濃度定量が困難」ということもあるため、他の手法(例えば、NMR分光法)と相補的に用いる必要があるとのことです。  次に、アルカリホウ酸塩ガラスの高温構造変化についてご説明頂きました。ガラスは加成性が成り立つため、本来、アルカリ量とともに熱膨張係数や等温粘性係数が単調的に変化します。しかし、アルカリホウ酸塩ガラスでは、アルカリ量を変化させたとき熱膨張係数に極小値、等温粘性係数に極大値をとるといったホウ酸異常という現象を生じます。この現象についてラマン分光法を用い原理解明されたということで解説頂きました。まず、高波数域の偏光ラマンスペクトルのピーク分離解析から、NMR分光で算出される構造体の割合とラマンスペクトルのピーク強度の関係づけに成功しました。更に、Na2O量と温度条件を振り、ラマンスペクトル解析をしたところ、4配位ホウ素が3配位ホウ素へと変化し始める温度TxSROがあること、そしてアルカリ量によってTxSROが変化しNa2O:20mol%付近で最大TxSRO(約800oC)を取ることを多数のグラフを用いて解説頂きました。800oC以下ではNa2O量増加に伴い、3配位ホウ素優勢→4配位ホウ素優勢(Na2O:20mol%付近)→3配位優勢という構造変化を取るため、800oC以下では等温粘性係数に極大値が生じるという解説を頂きました。これは、Zhong, Bray(1989)の結果と相補的な結果であるそうです。 続いて、アルカリケイ酸塩ガラスの高温構造変化についてご説明頂きました。偏光ラマンスペクトルのピーク分離後のピークは、SiO4四面体の振動モードを表します。配位するアルカリ種、あるいは、SiO4のQnにより振動モードが異なるため、ピーク強度を解析することで、Qn情報とアルカリ種による影響を読み取ることができます。一方で、33R2O-67SiO2のダイシリケート組成では、全てのSiO4が平均的にQ3を形成していて、高温融体では2Q3?Q2+Q4の平衡反応が起こっていますので、読み取ったQn情報と計算することでQ3量比を算出することができるそうです。ラマンスペクトルによるQ3比の解析によると、Na, K系ではQ3比の温度依存性が大きく、Li系では小さいそうです。ダイシリケートガラス融体を冷却するとき、融点付近で急冷すればそのまま準安定状態の過冷却状態に、熱処理などすればより安定状態の結晶となります。アルカリダイシリケート結晶構造のSiO4が全てQ3であることから融点付近では、1Q2+1Q4+4Q3[melt]?6Q3[crystal]という平衡が成立しているそうです。また、Li, Na, K系全てにおいて融点付近でQ3比が一致し、かつ、[Q3]=約0.66であることに注目し、ダイシリケートの結晶化について考察しました。Na, K系では、融点以下でQn が温度依存しエントロピーSが下がるため、過冷却状態でも比較的安定な状態になり結晶化しにくいそうです。しかし、Li系では、融点以下でQnが温度依存せず、Q3比が高いままで、エントロピーSが下がらないため、過冷却状態が比較的不安定な状態になり結晶化しやすいとのことでした。 最後に、高温ガラス構造を理解する為の分子動力学計算についてのポイントについて述べて頂きました。数多くのグラフから融体を俯瞰的に理解することができ、高温ラマンスペクトル測定法への関心が、より一層強まりました。




[講演3]「世界一構造秩序のあるガラスの合成と構造解析」

京都大学 複合原子力科学研究所 助教
小野寺 陽平(オノデラ ヨウヘイ) 先生

 温度と圧力を制御することによって合成した永久高密度化ガラスの構造秩序を、量子ビーム実験や構造モデリング、トポロジカル解析を駆使して解明するプロセスをご講演頂きました。 最初に、シリカ(SiO2)の3次元構造の特徴(SiO4四面体の頂点共有ネットワークによって形成されるリングのサイズ分布、空隙構造)について説明頂きました。SiO2ガラスの空隙の割合は32%だそうです。続いて、SiO2ガラスの中性子とX線回折データを示して頂きました。中性子の散乱は原子核構造に依存する為、軽元素に敏感である一方、X線は電磁波なので、重元素に敏感という特徴があります。その為、中性子はO-Oが良く見え、Si-Siはピークが埋もれてしまうそうです(一方で、X線ではSi-Siがよく見えます)。加えて、逆モンテカルロ(RMC)モデリングという乱数を用いて、回折データを再現する3次元構造モデルを構築する手法を解説頂きました。RMCは乱数を用いて原子をうごかす為無秩序な構造を作る傾向にあり、適切な構造制約条件を与えることが信頼性の高いモデルの構築には必要です。こMCモデリングで構築した構造モデルを用いて、SiO2ガラスのFSDPとPPの起源について説明頂きました。FSDPはSi-Si、Si-O、O-O全ての相関が回折データにポジティブに寄与することからX線中性子線共に現れるが、PPはSi-O相関がネガティブに寄与するのでX線回折では観測されず、O-O相関の寄与が大きい中性子回折でしか観測することができないそうです。 次に、圧力7.7GPaにおいて温度を変化させて合成したSiO2ガラス(高温圧縮ガラス)の合成についてお話し頂きました。合成の結果として、密度変化は600℃付近に屈曲点を持つこと、1200℃ではコーサイト(結晶)に転移することが確認されました。また、1200℃/7.7GPaのガラスと同等密度のガラスをRT/20GPaで合成し(低温圧縮ガラス)、構造の比較を行いました。ガラスの密度を合成した一年後に再度測定したところ、、驚くべきことに低温圧縮ガラスは、徐々に密度が通常のガラスに戻る一方、高温圧縮ガラスは1年後も密度は不変だったそうです。X線回折データのFSDP解析より、今回合成した高温圧縮ガラスのFSDPは、報告されているガラスの中で最も鋭いことから、“世界一構造秩序のある永久高密度化ガラスの合成”に成功となりました。合成したガラスの中性子非弾性散乱によるダイナミクスの測定結果や、分子動力学と最初に説明頂いたRMC法をハイブリッド化したシミュレーション結果についてご説明頂きました。実験データを再現する高密度化SiO2ガラスの3次元原子配列の構築に成功したとの事で、空隙、リングサイズ分布、パーシステントホモロジー法による解析の結果について説明頂きました。 最後に、ガラスの高密度化による構造秩序形成のメカニズムは温度と圧力によるリングの変形によって起こることを説明頂きました。これは温度と圧力の精密な制御による新機能性ガラス合成への展開が期待されるとの事でした。様々な構造解析・シミュレーション手法の流れを追うことができ、とても興味深い講演となりました。






今回「ガラスの構造と解析技術」というテーマでご講演頂きました。まず、ガラスの構造と解析技術についてご講演頂き、ガラス基礎や分析手法の再確認から、機械学習といった応用まで学ぶことができました。続いて、ラマンスペクトルによる高温ガラス融体の構造解析について、多種多様なラマンスペクトルグラフを用いて説明頂きました。ラマン散乱法を用いるポイントをよく理解することができました。最後に、世界一構造秩序のあるガラスの合成と構造解析について講義頂き、実際に高密度化のガラスを合成されて構造解析する一連の流れを学ぶことができました。 全体として、ガラスの構造をより深く捉えるポイントを掴むことができ、これからの研究人生に生かすことができると確信しました。ご講演いただきました先生方に感謝いたします。また、今回初めての試みとなった“ガラス基礎”の内容を、大変分かりやすく講義頂いた徳田先生に御礼申し上げます。今回もweb開催となり、終了後の懇談会ができなかったことを残念に思いますが、講演最後には皆様から多数の質問を頂きました。特に最近の若手懇で最も事前質問が多く、誠にありがとうございました。今後ともNGF若手懇談会をよろしくお願いいたします。


以上

2021年10月4日 NGF若手懇談会 副会長 嶋崎 俊輔
副会長 森田 陽子

 

講演会アンケート結果 過去の講演会

若手懇談会のトップページへ戻る