若手懇談会前回の講演会
第144回講演会報告

第143回若手懇談会開催報告

【日時】2022年3月4日(金)14時00分〜17時20分
【場所】Microsoft Teams を使用したWeb開催
【テーマ】ガラスの分析技術

[講演1]「ガラスの粘性・弾性の分析方法について」

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
ナノ材料研究部門高機能ガラスグループ 上級主任研究員
博士(理学)
北村 直之(キタムラ ナオユキ) 先生

シリカガラスの点欠陥の種類や分析方法についてご紹介いただきました。初めに、シリカガラスの基本的な性質についてご説明いただきました。シリカは組成がSiO2で、Si-O結合のみで構成され、ガラス状態ではシリカガラスとなり、代表的な結晶にα-石英があります。電子構造では、Si-Oの結合力が大きいため、バンドギャップが9eV程あります。このエネルギー帯は波長200nm以下の真空紫外域であり、シリカガラスの原子空孔や格子間原子、ダングリングボンド、不純物などの欠陥に伴い、紫外域から真空紫外域に光吸収が生じます。紫外域の光吸収は光リソグラフィーの分野で影響を及ぼします。光リソグラフィーは解像度を上げるために波長の短い光を使用するため、紫外―真空紫外域の透明性が重要となります。シリカガラスの欠陥を低減する例として、フッ素ドープについてご説明いただきました。シリカガラスにフッ素をドープすると、真空紫外域に光吸収を示すOH基やSi-Si結合の濃度を下げ、透明性を向上させることができるそうです。次に欠陥の濃度と評価方法についてご説明頂いた。欠陥の濃度は単位体積当たりの数で表現され、シリカの格子原子の濃度は10の22乗のオーダーです。光リソグラフィー用のシリカガラス中のSiOH濃度は18乗程度です。これらの欠陥は主に分光法で評価され、欠陥サイズや目的に応じて測定方法を選択します。ここでは、シリカガラスの代表的な欠陥であるNBOHC(非架橋酸素ホール中心)に対する、種々の分光法の検出例をご紹介いただきました。紫外・可視吸収法の場合、ピークの幅が広く、複数のピークが重畳しているためピーク分離が必要となります。また、未同定のピークが存在していると定量精度が下がってしまいます。近赤外域までの測定が可能であれば、SiOH基が検出できます。ここで、仮想温度や局所構造の違いや水素結合の有無によってピークの幅や位置がわずかに異なる場合があることに注意が必要です。さらに、波長200nm以下の真空紫外光は大気中のO2により吸収されるため、光路を真空もしくはN2パージする必要があります。波長300nm以下の深紫外から真空紫外域の吸収帯は複数のピークが重なり合ってできており、ピーク分離が大変だそうです。次に、蛍光法の場合、検出限界は暗信号であるため、欠陥が低濃度であっても測定が可能です。しかし、濃度の決定には量子効率や発光捕集効率などを考慮する必要があります。さらに、パルスレーザーを用いることで、高感度の測定が可能となります。また、反応量子効率や拡散係数といった反応追跡への利用もされます。応用例として、複数のモデルが考えられる欠陥に対して、発光寿命とエネルギーの関係や発光の偏光依存性から欠陥を同定することができたそうです。続いて、ガラスネットワークの隙間に入り込んだ気体分子による欠陥の検出方法についてご説明いただきました。シリカ中の格子間O2分子は赤外発光法によって高感度検出でき、シリカガラス網目との酸素交換の検出は同位体置換に伴う発光スペクトルのピークシフトを利用すれば可能です。また、格子間塩素種はO2やH2Oの含浸による赤外スペクトルのピーク変化で同定が可能です。電子常磁性共鳴は不対電子をもつ欠陥種の測定で強力です。例えば、NBOHCやパーオキシラジカルによる欠陥に対して、同位体置換による測定により同定が可能となりました。しかし、電子常磁性共鳴や蛍光法は軌道縮退により感度がなくなる場合があります。そのため、定量は光吸収のほうが確実です。最後に、多成分系ガラスに生じる欠陥をいくつかご紹介いただきました。酸素ホール中心の欠陥が各網目形成酸化物で生じるため種類が大幅に増えます。また、金属イオンによるソラリゼーションや典型元素電子中心などの欠陥も現れ、単成分のシリカと比較して多種にわたります。欠陥の種類は非常に多く、多種の測定方法を使い分ける必要があるため、幅広い測定方法や解析方法の知識が求められることがわかるご講演でした。  




[講演2]「シリカガラスにおける点欠陥とその分析方法」

東京都立大学 大学院都市環境科学研究科 環境応用化学域 教授
梶原 浩一(カジハラ コウイチ) 先生

  シリカガラスの点欠陥の種類や分析方法についてご紹介いただきました。初めに、シリカガラスの基本的な性質についてご説明いただきました。シリカは組成がSiO2で、Si-O結合のみで構成され、ガラス状態ではシリカガラスとなり、代表的な結晶にα-石英があります。電子構造では、Si-Oの結合力が大きいため、バンドギャップが9eV程あります。このエネルギー帯は波長200nm以下の真空紫外域であり、シリカガラスの原子空孔や格子間原子、ダングリングボンド、不純物などの欠陥に伴い、紫外域から真空紫外域に光吸収が生じます。紫外域の光吸収は光リソグラフィーの分野で影響を及ぼします。光リソグラフィーは解像度を上げるために波長の短い光を使用するため、紫外―真空紫外域の透明性が重要となります。シリカガラスの欠陥を低減する例として、フッ素ドープについてご説明いただきました。シリカガラスにフッ素をドープすると、真空紫外域に光吸収を示すOH基やSi-Si結合の濃度を下げ、透明性を向上させることができるそうです。次に欠陥の濃度と評価方法についてご説明頂いた。欠陥の濃度は単位体積当たりの数で表現され、シリカの格子原子の濃度は10の22乗のオーダーです。光リソグラフィー用のシリカガラス中のSiOH濃度は18乗程度です。これらの欠陥は主に分光法で評価され、欠陥サイズや目的に応じて測定方法を選択します。ここでは、シリカガラスの代表的な欠陥であるNBOHC(非架橋酸素ホール中心)に対する、種々の分光法の検出例をご紹介いただきました。紫外・可視吸収法の場合、ピークの幅が広く、複数のピークが重畳しているためピーク分離が必要となります。また、未同定のピークが存在していると定量精度が下がってしまいます。近赤外域までの測定が可能であれば、SiOH基が検出できます。ここで、仮想温度や局所構造の違いや水素結合の有無によってピークの幅や位置がわずかに異なる場合があることに注意が必要です。さらに、波長200nm以下の真空紫外光は大気中のO2により吸収されるため、光路を真空もしくはN2パージする必要があります。波長300nm以下の深紫外から真空紫外域の吸収帯は複数のピークが重なり合ってできており、ピーク分離が大変だそうです。次に、蛍光法の場合、検出限界は暗信号であるため、欠陥が低濃度であっても測定が可能です。しかし、濃度の決定には量子効率や発光捕集効率などを考慮する必要があります。さらに、パルスレーザーを用いることで、高感度の測定が可能となります。また、反応量子効率や拡散係数といった反応追跡への利用もされます。応用例として、複数のモデルが考えられる欠陥に対して、発光寿命とエネルギーの関係や発光の偏光依存性から欠陥を同定することができたそうです。続いて、ガラスネットワークの隙間に入り込んだ気体分子による欠陥の検出方法についてご説明いただきました。シリカ中の格子間O2分子は赤外発光法によって高感度検出でき、シリカガラス網目との酸素交換の検出は同位体置換に伴う発光スペクトルのピークシフトを利用すれば可能です。また、格子間塩素種はO2やH2Oの含浸による赤外スペクトルのピーク変化で同定が可能です。電子常磁性共鳴は不対電子をもつ欠陥種の測定で強力です。例えば、NBOHCやパーオキシラジカルによる欠陥に対して、同位体置換による測定により同定が可能となりました。しかし、電子常磁性共鳴や蛍光法は軌道縮退により感度がなくなる場合があります。そのため、定量は光吸収のほうが確実です。最後に、多成分系ガラスに生じる欠陥をいくつかご紹介いただきました。酸素ホール中心の欠陥が各網目形成酸化物で生じるため種類が大幅に増えます。また、金属イオンによるソラリゼーションや典型元素電子中心などの欠陥も現れ、単成分のシリカと比較して多種にわたります。欠陥の種類は非常に多く、多種の測定方法を使い分ける必要があるため、幅広い測定方法や解析方法の知識が求められることがわかるご講演でした。




[講演3]「ガラス工業における蛍光X線分析の応用」

株式会社リガク X線機器事業部 SBU WDX 東京分析センター グループリーダー
高橋 学人(タカハシ ガクト) 先生

 蛍光X線分析の原理と利用例、実測データをご紹介いただきました。蛍光X線分析はどのような元素が含まれているかという定性分析と、どれくらい含まれているのかという定量分析を行うことができます。初めに、蛍光X線の装置構造と測定原理についてご説明いただきました。蛍光X線分析は物質にX線を入射することで物質中の電子が励起し、外殻からの電子が移動し、その際に蛍光X線が放出され、それを検出することで元素分析を行います。また、試料厚みで蛍光X線強度が変化するため、これらの関係から膜厚を計算することも可能とのことです。次に粉体の試料調製法をご紹介いただきました。加圧成形機を用いる加圧成形法、一度粉末試料を高温で溶融し作製するガラスビード法、試料容器とフィルムを用いて未成形の状態で測定可能なルースパウダー法などがあります。それぞれにメリット・デメリットがあるため目的に応じて使い分ける必要があります。いずれの方法でも良好な分析結果が得られており、特にガラスビード法がより正確な分析手法であることが分かったそうです。次にファインセラミックス製造の原料に使用される窒化けい素の分析例をご紹介いただきました。加圧成形法で調製した試料の測定では、分光室の真空度の低下によりX線強度が大きく減少したそうです。また、繰り返し測定で試料表面に有機物が付着し、測定結果が変動してしまうようです。そのため、迅速な測定が重要と考えられます。続いて、透明電極膜(ITO)の膜厚組成分析を例にソフトウェアの操作手順と分析線の検討方法をご説明いただきました。分析線はスペクトルの重なりがないか、ピーク強度は十分か、バックグランドの影響がないかなどを考慮して選択します。装置に備わっている最適測定線検索機能を活用すれば容易に選択することも可能とのことです。最後に、極微少量粉末のスタンダードレスFP分析についてご説明いただいた。調製方法はダブルペレット法と呼ばれる、土台となるペレットに分析試料を加圧成形で押し込む方法を用いた。この手法での注意点は、試料厚みを薄く成形するため、分析深さが深い分析線を用いる場合、分析値が低くなる傾向があり、Zrの測定精度は低くなってしまうそうです。蛍光X線分析は馴染みのある分析方法ではありますが、試料の調整方法によって幅広い利用方法があることがわかるご講演でした。






今回「ガラスの分析技術」というテーマでご講演いただきました。分析技術といっても、ガラスの状態や分析目的によって使用する装置や解析方法が全く異なります。今回のご講演ではガラスの粘性・弾性、欠陥、元素分析であり、同じ測定方法を用いたものは一つもありませんでした。また、第一講演で粘性・弾性の評価が1600年頃から続けられているとの説明があり、分析技術の難しさや重要性を学ぶことができました。今回の講演内容は基礎的な内容から具体的な測定例を用いて丁寧にご説明いただき、これらの分野の分析を始めようとされる方にとって、非常に為になる講演になりました。ご講演いただきました先生方に感謝いたします。今後ともNGF若手懇談会をよろしくお願いします。


以上

2022年3月4日 NGF若手懇談会 副会長 和所 拓洋
副会長 佐藤 良司

 

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