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第148回講演会報告 第148回若手懇談会開催報告
[講演1]「ガラス物理の最近の進展」 東京大学大学院総合文化研究科 助教水野 英如(ミズノ ヒデユキ)先生 ガラスは結晶化を避けながら液体を急冷することによって得られ、液体のランダムな分子配置を持ったまま原子が移動しなくなった状態である。本講演では、ガラス物理の基本的な問題である「なぜ・どのようにして、系は液体状態のまま固化するのか」および「固化した物質(ガラス)はどのような物性を有するのか」についてご紹介いただいた。初めに第一の問題に関連する近年の進展として、「モード結合理論」および「レプリカ理論」についてご説明いただいた。これらの理論は、平均場近似の下でガラス転移の存在を理論的に予言するとのことであった。また第二の問題については、極低温環境においてガラスにのみ見られる特異な比熱挙動について、分子動力学(MD)計算を用いて説明を試みたご自身の研究事例をご紹介いただいた。ガラス中の原子の挙動をMD計算で調べた結果、ガラスは結晶とも液体とも異なる分子運動を示し、ガラスは結晶と液体の中間的な状態といえるとのことであった。懇談会会員においてはガラスメーカーの技術者が多く、普段触れることの少ないガラス物理について紹介いただき、非常に有益な知見が得られました。 [講演2]「石英およびシリカガラスの中性子線照射シミュレーション」 千葉大学大学院工学研究院工学部共生応用化学 准教授大窪 貴洋(オオクボ タカヒロ)先生 原子力発電所のような放射線環境下においては、コンクリート建材等に含まれる鉱物の結晶構造が中性子線により乱されアモルファス化する事で、体積が膨張することが知られている。本講演では、石英とシリカガラスに中性子線を照射した際の挙動について、分子動力学(MD)計算を用いたシミュレーションの結果についてご解説いただいた。中性子線照射によって石英の結晶構造内に過剰配位や不足配位した不安定なユニットおよびバルクガラスに存在しない大きな空隙が生成することが、体積が膨張する要因とのことであった。一方、シリカガラスでは、石英と比べて異常配位数や大きな空隙の生成のような構造変化が小さいことも明らかとなった。また、力学特性のシミュレーションの解析により照射石英が破断に至るメカニズムを解説いただいた。非晶質化による空隙構造の複雑化で、結晶中には存在しない大きな空隙が生成されることでヤング率が低下することが主な要因とのことであった。中性子線照射シミュレーションによる石英とシリカガラスの違いからその力学特性シミュレーションまで丁寧にお話し頂いたことで理解が深まりました。 [講演3]「無機ガラスにおける構造秩序制御と応用」 AGC株式会社 材料融合研究所 研究員北海道大学 電子科学研究所 准教授小野 円佳(オノ マドカ)先生 ガラスの構造制御による高機能化の例として「シリカガラスの秩序化による光損失の低減」と「不均質化によるガラス強化」という2つの研究をご紹介いただいた。1例目の研究では、光ファイバに使用されるシリカガラスにおいて構造中の空隙割合が多いほど光損失が増大するという課題に対し、圧力を用いて散乱を抑制する方法をご紹介いただいた。高温で高圧印可しながら作製したシリカガラスは構造が均質化され、常圧での熱処理では到達できない領域にまで光学的な散乱を抑制できる。また陽電子対の寿命からガラス中の空隙サイズを計測する手法についてもご紹介いただいた。2例目の研究では、表面近傍に金属ナノ微粒子を埋包することで不均質化したガラスの強度向上についてご紹介いただいた。微粒子表面には酸化物層が形成され、この層がガラス層との接着性が高いためにクラックの進展が抑制される。また金属ナノ微粒子埋包層ではヤング率の低下と塑性変形挙動がみられ、結果として化学強化ガラスに近い強度を示すということであった。ガラスメーカーの研究者ならではの視点での開発事例を紹介頂き、大変勉強になるご講演でした。 今回は「特殊条件下でのガラス」というテーマでご講演頂きました。普段触れる機会が少ないガラスの基礎研究的な内容から応用の事例まで幅広くご紹介いただき、大変興味深いご講演でした。ご講演頂きました先生方に感謝いたします。 以上 |
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