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第151回講演会報告
第151回若手懇談会開催報告
【日時】2023年10月13日(金)13時00分〜17時30分 【場所】日本ガラス工業センター 【テーマ】大先輩に学ぶ
[講演1]「ガラスと科学−ガラス産業と環境を考える−」
元日本電気硝子株式会社、滋賀県立大学 ガラス工学研究センター 研究員山本 茂 (ヤマモト シゲル) 先生
講演者は学生時代に公害に関する書籍*に感銘を受けたことで環境問題対策の重要性に気づき、以後ガラスメーカーにて勤務される中でも、環境に根差した様々な取り組みを行ってきた。本講演ではそれらの一部をご紹介いただいた。
最初に排ガス中に含まれるフッ素およびSOx/NOxによる公害問題とその対策について解説いただいた。フッ素はガラスの溶融促進や清澄剤として添加された一部が、SOx/NOxは原燃料燃焼の副産物として排ガスに混入し、これらによる公害問題が指摘されていた。会社の総力をあげて、製造プロセスの改良、低硫黄燃料(LNG)への切り替えや全酸素燃焼炉の導入による削減と対策に取り組んだとのことであった。これらの取り組みは単に公害対策となるだけでなく、物性の改善や生産設備の単純化などのメリットも得られたと説明いただいた。講演後半では高温溶融時に高い清澄効果をもつAs2O3について、その代替清澄剤の開発について紹介いただいた。清澄の理論についても解説いただき、現在では溶融プロセスの最適化を行うことで、Sn系清澄剤が使用されるようになったとのご説明いただいた。
今後のガラス業界ではCO2排出量の削減が重要な課題とされた。ガラス製造では溶融プロセスでの排出量が最も多く、その技術革新が期待される一方、水素燃焼等ではガラス中水分量の増加が懸念されるとの見解も示された。講演の最後には「志を持ち続けてほしい」と、若手研究者へのメッセージをいただいた。
*「恐るべき公害」庄司光 宮本憲一著
「公害原論」宇井純著
[講演2]「ガラスのおもしろさと可能性を求めて」
長岡技術科学大学 名誉教授小松 高行 (コマツ タカユキ) 先生
ガラスと結晶という両極端な物質から成る結晶化ガラスの魅力について、講演者自身の研究例を基に講演いただいた。ガラスは一般的に溶融状態から急冷する過程で原子配列が凍結された準安定相であると考えられているため、熱などの外的刺激を与えるとよりエントロピーの低い結晶相へと変化する。講演者は希土類含有ガラスに対しレーザー光を照射することで照射部分だけを選択的に結晶化させる技術を確立した。レーザー光による希土類イオン中の電子の励起・非輻射緩和に時に発生する熱エネルギーを利用することで、急峻な温度勾配の形成が可能になったとのことであった。加熱領域が極めて狭いことから、レーザー走査により結晶化部分でのパターン描画が可能であり、また形成された線状結晶相は所定の結晶軸がレーザーの走査の進行方向にそろった単結晶であるとのことであった。これらの現象は光導波路などへの応用が期待される。また局所的な結晶化により結晶軸が回転することで、通常の結晶化ガラスや単結晶育成時とは異なる結晶構造が得られたり、結晶の自己微粉化(結晶化する際に、結晶自らが微粉化する現象)が発生したりするなど、ユニークな特性も発見されているとのことであった。
講演者は、結晶化ガラスの研究はガラスそのものの研究であり、広い視点で様々な結晶化ガラスを見ることが、ガラスのおもしろさと可能性に繋がることを強調された。講演の最後には若手研究者へのメッセージとして「挑戦し続けること」の重要性を述べた。
[講演3]「ガラスの科学と技術−−企業と大学の狭間で−−」
元AGC 株式会社、元東京工業大学特任教授、元東京理科大学客員教授伊藤 節郎 (イトウ セツロウ) 先生
大学と企業における研究活動の考え方や姿勢についてお話しいただいた。講演者は博士課程での透明結晶化ガラスの研究をきっかけとして、大学研究者として人工骨用生体活性ガラスやガラスの疲労等に関する研究を実施し、その後企業研究者として様々なガラス製品の開発に取り組まれた。
それぞれの経験から講演者は、企業研究は大学研究に比べてプロセスが多く、「全体像が見えにくい点」が難しいと述べた。企業研究は素材の物性だけでは成立せず、市場の情勢によって成否が左右されるため、研究開発のウェイトも応用分野に偏りがちとのことであった。一方でそうした企業研究においてもノウハウに頼った課題解決だけでなく、基盤となる「基礎科学」を重視し科学的見地に基づく考察を行うことが重要であるとされ、研究例としてガラスの構造、特に、空隙構造と異方構造について紹介いただいた。ガラス中の空孔や異方性の正確な評価を可能にすることで、弾性率等各種物性を変化させられたとのことであった。
講演の最後では研究活動に重要なもう一つの姿勢として、「異分野や世の中の流れを取り込む」ことの必要性を述べられた。基礎科学はあらゆる分野に共通する原則であり、そうした土台の元で異分野の情報に触れることで新たな発想が生まれるとのことであった。企業研究では外部環境の変化により中断も再開もあるため、まずは目の前のことに対して一歩ずつ土台を作りながら進めることが後々の助けになるとのことであった。
今回の講演会は、「大先輩に学ぶ」というテーマで、3人の先生方にご自身の経験を中心にその背景も含めて講演いただき、若手技術者にとって今後の参考となる大変貴重な講演となりました。ご講演いただきました先生方ならびに参加者の皆様には講演後の懇親会にもご参加頂き、本会を盛り上げていただきました。本会を大先輩との良い交流の場としてご活用いただきましたことに感謝いたします。
今回の懇談会をもちまして現役員での体制は終了となります。任期中はコロナ禍で対面での開催が難しく本会の意義である交流が難しい状況でしたが、今年に入り現地開催の復活や見学会の開催などコロナ前の状況に戻りつつあります。次回以降は新会長の伊藤を中心に、新体制がスタートします。今後ともNGF若手懇談会をよろしくお願いします。
以上
2023年10月13日 NGF若手懇談会 副会長 佐藤 達也、中嶋 健人
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