若手懇談会前回の講演会
第152回講演会報告

第152回若手懇談会開催報告

【日時】2024年2月9日(金)13時00分〜17時30分
【場所】日本ガラス工業センター
【テーマ】結晶ガラス・分相ガラス

[講演1]「ガラスの分相と結晶化」

京都工芸繊維大学材料化学系 教授
若杉 隆 (ワカスギ タカシ) 先生

 ガラスの分相と結晶化のメカニズムについて、熱力学と反応速度論の観点からご説明いただいた。一般的にガラスの分相は液相同士の分相と認識されているが、結晶化についても固相と液相の分相として捉えることができる。まず、物質の混合や分相が生じる理由を、2成分系の理想溶液および正則溶液におけるモル分率-混合ギブズエネルギー曲線の温度変化を用いてご説明いただいた。次に、ガラスの結晶化について、結晶核生成とガラス-結晶界面生成それぞれの寄与を加味したギブズエネルギー変化が核の径に対してどのように変化しているかを反応速度論も交えてご説明いただいた。そして、バイノーダル分解とスピノーダル分解について、それらの分相の構造とモル分率-混合ギブズエネルギー曲線の関係性を紐づけながら、ご説明いただいた。最後に、3成分系の混合ギブズエネルギー曲面について2成分系との違いを交えながらその読み取り方についてご指南いただいた。ガラスの分相と結晶化について体系的に理解を深めることができたご講演でした。


若杉先生ご講演



[講演2]「分相法ポーラスガラス(SPS-PG:Spinodal phase separation method porous glass)-過去/現在 応用と未来-」

株式会社 環境レジリエンス 代表取締役社長
国立大学法人 北陸先端大学院大学客員教授 兼 インダストリアルアドバイザー
長澤 浩 (ナガサワ ヒロシ) 先生

 スピノーダル分相を利用する多孔質ガラス(以下SPS-PG)の歴史、特徴、製法、応用事例をご紹介いただいた。コーニング社のHoodらは、ホウ酸異常から発見した分相現象を合成石英ガラス製法に取り入れ、その中間生成物からSPS-PGを発明し、1938年に特許成立に至った。 その後1960年頃までSPS-PG の研究開発が盛んに行われていたが、板やパイプなどの成形体が上手く作製できず、その研究報告数は激減していった。しかし1979年にSPS-PGの細孔の中に堆積しているゲルを除去することに成功し、細孔径を制御できるようになったことで様々な分野へ応用されるようになった。他にも多孔質材料は多く存在するが、SPS-PGの最大の特徴は細孔径をマイクロポア、メソポア、ナノポアと呼ばれる領域全ての範囲に制御できることにある。また他の多孔質材料と異なり、SPS-PGの孔はきれいな円筒形であるため、分離精製フィルタとして使用した際の精度が非常に高い。上記特徴により現在では放射性セシウム/ストロンチウムの吸着除去、核酸合成、コンピュータサイエンスの認証技術に至るまで、幅広い分野で応用されている。ご講演によりSPS-PGの非常に幅広い有用性とともにまだ見ぬ可能性を感じることができました。


長澤先生ご講演



[講演3]「ナノ粒子分散による強靭なガラスの開発」

産業技術総合研究所 ナノ材料研究開発部門 主任研究員
大阪大学大学院工学研究科 准教授
篠崎 健二 (シノザキ ケンジ) 先生

 ガラスが割れるメカニズムや、割れにくくする従来の方法についてご説明いただいた後、Niナノ粒子を微量分散させて靭性を向上した事例をご紹介いただいた。ガラスは、亀裂が入り、その先端で応力が集中して割れる。割れにくいとされる強化ガラスは、表面の圧縮層により傷が入りにくいが、靭性が高い訳ではなく、内側の引張層に亀裂が入ると割れる。よって、ガラスを割れにくくするには靭性を上げるアプローチが重要である。靭性を上げるには、(1)ヤング率の向上、(2)表面エネルギーの向上、(3)塑性歪エネルギーの向上が有効だが、(1)(2)は結合強度、引いては融点を上げるため実用的ではない。(3)は従来のガラスでは無視できるほど小さいが、これを向上させるために亀裂の先端で塑性変形を生じるNiナノ粒子を析出させ、応力集中を避けて靭性を上げることに成功した。なお他にセラミック製結晶を用いた事例はあるが、数十vol%程度の添加が必要なためガラスの特性を大きく変える。一方Niナノ粒子では0.5vol%でもガラス組成の変化だけでは到達できない領域まで破壊靭性が向上した。微量の材料添加でもガラス特性を大きく変えられる点に構造制御の影響力の大きさを感じたご講演でした。
 

篠崎先生ご講演





 今回は「結晶化ガラス・分相ガラス」というテーマでご講演頂きました。ガラスの結晶化や分相は均一なガラスを製造する上では問題となりますが、今回のご講演ではそれら現象を用いて大変有用な応用や材料特性の向上についてメカニズムも含めて知ることができ、大変勉強になりました。
 ご講演頂きました先生方に感謝いたします。今後ともNGF若手懇談会をよろしくお願いします。




以上

2024年3月9日 NGF若手懇談会 副会長 小西 和明、森田 大智

 

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