若手懇談会前回の講演会
第153回講演会報告

第153回若手懇談会開催報告

【日時】2024年5月10日(金)13時00分〜17時30分
【場所】日本ガラス工業センター
【テーマ】ガラスの着色

[講演1]「ガラスの光学的性質の基礎−透光性と着色−」

京都工芸繊維大学 名誉教授 工学博士
角野 広平 (カドノ コウヘイ) 先生

 はじめに電磁波が従う波動方程式から物質の光吸収をご説明いただき、次に各物質の光との相互作用・透光性についてご説明いただいた。金属が自由電子の振動により光を反射する一方、絶縁体・半導体(誘電体)は、概ね0.1~1.0 μmに電子励起による吸収、5 μm以上の範囲に振動励起による吸収を有する。また、ガラス(非晶質体)の短波長吸収端は、構造のランダム性からバンドギャップ(Eg)が一意に決まらず、シリカガラスのEgは8~9 eVである。そして、様々なガラスの透過スペクトルをエネルギー準位図と構造の観点からご説明いただいた。例えば、ケイ酸塩ガラスではアルカリ(土類)の導入によりEgが狭くなり吸収端が長波長シフトする。また、ホウ酸塩ガラスではNa2Oが15mol%以上になると吸収端が長波長へシフトし、これはホウ素の3から4配位への変化が関係している可能性が考えられている。最後に、半導体微粒子を用いたシャープカットフィルターや、先生が研究された「ステイン法を用いた三原色着色技術」等の応用例をご紹介いただいた。基礎的な光吸収の原理を中心に実際の応用例まで幅広くご説明いただき、ガラスの光吸収の概要を学ぶことができるご講演でした。


角野先生ご講演



[講演2]「ソーダライムガラス中のFe2+イオンの構造と着色についての考察-」

AGC株式会社 材料融合研究所 無機材料部 マネージャー 博士 (工学)
土屋 博之 (ヒジヤ ヒロユキ) 先生

 ソーダ石灰ガラス中のFeイオンは紫外〜赤外の幅広い範囲の光を吸収し、ガラスの透過率と色に大きな影響を与える。本講演では、ガラス中のFe2+のモル吸光係数の組成依存性の解明を目的とした様々な手法を用いた解析についてご紹介いただいた。メスバウアー法を用いた解析では、IS, QS分布図から16Na2O-10RO-74SiO2-0.185Fe2O3 (mol%) (R=Mg, Ca)中のFe2+は4, 5, 6配位として存在することが示唆され、塩基性度が高いCaOを含むガラス中のほうがFeO6八面体の歪が大きくなることが示唆された。XAFSの解析では、動径分布関数から2Å付近のFe-O距離に相当するピークがMg(2.00Å)よりもCa(2.03Å)を含むガラスで大きいことが示唆され、この結果は古典MD計算から得られた結果と整合的であった。今回確認されたFe2+イオンの配位数変化や配位多面体の歪みが光吸収特性に与える影響は大きいと考えられ、今後も更なる研究が必要である。実験と計算の様々なアプローチから緻密な解析を進められ、Fe2+の構造を詳細に研究されており、大変勉強になるご講演でした。


土屋先生ご講演



[講演3]「メタロ超分子ポリマーを用いたエレクトロクロミック調光ガラスの開発」

国立研究開発法人 物質・材料研究機構 電子機能高分子グループ グループリーダー
樋口 昌芳 (ヒグチ マサヨシ) 先生

 エレクトロクロミック材料を用いた調光ガラスは、電気により着色と透明が切り替わり、次世代スマートウインドウとして注目されている。本講演では、電荷移動吸収が電位により切り替わるメタロ超分子ポリマーについてご紹介いただいた。まず、3つの金属(Os, Ru, Fe)を含む1次元ポリマーをご紹介いただき、これは0, 0.7, 0.85, 1.2 Vの電位で赤, 茶, 橙, 黄色と段階的に色が変化する。また、2つの溶液を接触させて反応させることで2次元ナノシートを合成可能である。さらに、3次元の高架橋構造を有するポリマーも合成でき、2次元の構造を10~15%含む場合に、少ない電荷量で最も大きなコントラスト差を示し、これには多孔質構造が寄与していると推定される。これらポリマーを用いて開発されたデバイスは、優れた蓄電特性により消色から着色への切り替えに電池を必要とせず、また着色から消色も低電圧で切り替わる特長を有し、調光ガラスとして茨城県庁舎等に実際に設置されている。最先端の研究から調光ガラスの幅広い可能性を強く感じることができるご講演でした。
 

樋口先生ご講演





 今回は「ガラスの着色」というテーマで3名の先生方にご講演頂きました。ガラスの着色は高機能なガラス製品をつくるうえで非常に重要な特性であり、今回のご講演では基礎的な原理から実際の応用例まで幅広く学ぶことができ、大変勉強になりました。
 ご講演頂きました先生方に感謝いたします。今後ともNGF若手懇談会をよろしくお願いします。




以上

2024年5月10日 NGF若手懇談会 副会長 小西 和明、森田 大智

 

講演会アンケート結果 過去の講演会

若手懇談会のトップページへ戻る