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第155回講演会報告 第155回若手懇談会開催報告
[講演1]「ガラス溶解プロセスのシミュレーション技術の基礎と応用」 AGC株式会社 先端基盤研究所 ガラスプロセス部
フロートガラスの生産では窯内の情報は限定的であるため、シミュレーションによりガラスの対流・温度場を予測することは非常に有効である。これにより、最適な操業条件を選択することができ、様々な制約下においてもベストコストで高品質なガラスを生産できる。シミュレーション業務の流れを大別すると「問題提起 -> モデル構築 -> 感度解析」となる。問題提起では、目的を明確化しそれを達成するために過不足ない手法を見極めることが重要である。モデル構築・感度解析では、ツールや解析対象の現象をよく理解したうえで適切なメッシュ(計算格子)を作成し、最終的に得られる結果の妥当性を十分に検証する必要がある。また、本当は妥当でない結果でも、もっともらしく見えることもよくあるため注意が必要である。最後に、シミュレーションの精度検証の実例として、フロート窯の温度分布が計算値と実測値でよく一致することが示された。シミュレーション技術の実務を中心に、技術者と利用者両方の視点から重要事項を解説いただき、大変勉強になるご講演でした。 [講演2]「ガラスモールド成型プロセスにおけるシミュレーション技術のご提案」 合資会社アイ・フォース 取締役社長 ガラスモールドシミュレーションとは、ガラスを特定の形状に成形するプロセスをコンピューター上でモデル化し解析する技術であり、製造工程の最適化や製品品質の向上が期待できる。本講演では、”CalculiX”というオープンソースソルバーを用いた独自の解析についてご紹介いただいた。ガラス材料の成形では各種物性の温度依存性を正しく取得し計算に反映することがキーポイントであり、ご紹介いただいた解析ではヤング率、熱膨張係数およびクリープ係数が計算に使用された。計算結果からは、材料や枠の形状変更により転写性、永久歪および残留応力が大きく変化することが示された。このような取り組みから、材料物性の正しい取得または推定が計算結果に大きく影響することがわかり、材料物性がある程度実態に即していればシミュレーションによって有効な情報を得ることができると考えられる。ガラスモールドシミュレーションの概要を実際の計算事例を用いてご説明いただき、大変興味深いご講演でした。研究者の立場からは、材料物性を正しく取得することの重要性を改めて認識することができました。 [講演3]「脱炭素社会に向けたエア・リキードの酸素予熱燃焼と水素燃焼」 Air Liquide, SEA NEAPac and ALFE Combustion Expert エア・リキード社はガラス溶解炉のサイズに合わせた酸素バーナーを提供しており、バーナーの選択等にシミュレーションを活用している。酸素バーナーには、「空気経路に酸素を合流させて酸素富化するタイプ」、「既存エアバーナ吐出口近くに別途酸素ランス吐出口を設置した酸素ブースティングするタイプ」「助燃材を酸素100%とした純酸素燃焼タイプ」の3種があり、ターゲットやプロセスごとに使い分けを行っている。空気燃焼に対して酸素燃焼は、伝熱効率の向上、排ガス(排熱)量の低減といった特長を有する。ガラス炉内の温度分布に関するシミュレーションからは、酸素燃焼によってガラスの均一な受熱が実現されることが示された。さらに、水素燃焼の開発・実証にも取り組まれており、小型炉での試験から実炉への適用と段階的にテストが進められている。水素燃焼に関するシミュレーションでは、すすの発生が抑制されることで炉内が均一に熱せられることが示唆されたが、引き続き検討が必要である。燃焼とシミュレーションの両方をわかりやすく解析いただき、今後のさらなる発展が期待されるご講演でした。 今回は「ガラス製造プロセスのシミュレーション技術」というテーマで3名の先生方にご講演頂きました。ガラス製造におけるシミュレーション技術は、最適なコストで高品質なガラスを製造するうえで欠かせない技術であり、今回のご講演ではシミュレーションの実務内容から具体的な適用例まで幅広く学ぶことができ、大変勉強になりました。 以上 |
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