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最新号目次


Serial No.142 cover photo NEW GLASS
Vol.39 No.2 2024
(Serial No.142)
表 紙: 半導体サポートガラス:各種半導体の支持基板。さまざまな熱膨張を有するガラスがある。高い平滑性や形状精度が必要であることに加え,半導体製造プロセスで破損しないよう,高強度である必要がある。[写真提供:日本電気硝子株式会社]


巻頭言

ニューガラスフォーラム会長就任にあたって ------- p.1 [試し読み]

1980年代初頭,オプトエレクトロニクスなど新たな先端技術産業の台頭に伴い,これらの要求に応える材料として機能性を飛躍的に高めたニューガラスが注目されはじめた。こうしたなか,ニューガラスフォーラムが設立され,産官学の緊密な連携によるニューガラスの研究開発,産業基盤整備等の事業を推進してきた。来年は,いよいよ設立40周年である。この節目の時期を迎えるにあたり,ニューガラスの未来を展望すると,ガラスの技術開発の基盤とも言える部分において加速化するいくつかの課題が挙げられる。中でも,次の3つの課題は解決に向けて取り組んでいく必要があると考えている。

日本電気硝子(株)代表取締役会長 松本 元春


特集「計算科学を活用したガラスの研究」

1)ガラスの機械学習 ------- p.3 [試し読み]

機械学習とは,機械(コンピュータ)がデータから自動で学習し,その背景にあるパターンやルールを発見する方法というように説明される。コンピュータが自動で学習する,といっても,目の前の箱が何も指示を受けずに学習するわけではない。評価関数を定義し,評価値が最小(または最大)になるように関数形を変えることによって学習する。広義には,実験結果のフィッティングも機械学習に含まれる。例えば,組成xに対して物性yが一次関数y = ax+b に従うとしたときに,aとbを決めるのも機械学習の一種である。このように考えると,読者の皆さんの研究でも機械学習を頻繁に使っているのではないだろうか。

滋賀大学 徳田 陽明

2)様々なSiアルコキシドを前駆体原料として用いたゾル-ゲル低反射膜特性の機械学習による外挿予測 ------- p.8 [試し読み]

これまでは過去の研究開発の経験や知見をもとにして試行錯誤で新材料・新製品開発を進めてきたが,日々新しい機能をもつ材料が求められる中で,人間の探索能力だけではその開発スピードや新材料発見に限界もある。そこで機械学習を用いた材料開発のアプローチが考えられる。つまり,機械学習モデルによって任意の前駆体原料を用いたゾル-ゲル膜の特性を予測することができれば開発コストが抑えられる。従来の開発では様々な前駆体原料を用いたゾル- ゲル膜の特性を知るためにはたくさんの試薬を入手しそれらすべてを用いてサンプル作製・評価を行うことでようやく膜特性を知ることができる。一方,機械学習を活用した開発の場合,手持ちにない前駆体原料であっても実験をせずに機械学習モデルの予測によって膜特性を知ることができるので,時間やコストが抑えられる。

日本板硝子(株) 倉上 拓真

3)機械学習分子動力学法による高密度シリカガラスの構造解析 ------- p.13 [試し読み]

ガラス構造には原子の配列に周期性がなく,実験的に得られる情報は平均的な構造を反映したものとなる。そのため,ガラス物質の三次元構造を推定するには,シミュレーションの利用が重要となる。分子動力学法(MD)は,ガラス物質の構造モデルを提供する手法として古くから用いられている。MD計算は原子間ポテンシャルから原子間に働く力を計算し,ニュートンの運動方程式に従って系を時間発展させることで,物質の構造や物性値を計算する手法である。MD計算の結果は原子間ポテンシャルに強く依存するため,その設計は極めて重要である。原子間ポテンシャル設計の方法は多岐にわたるが,近年では機械学習を用いた原子間ポテンシャルの作成が広く行われるようになった。

日本原子力研究開発機構 小林 恵太

4)ホウ素酸化物結晶の第一原理計算 ------- p.18 [試し読み]

ガラスの物性を原子レベルで理解する上で,モデルポテンシャルを用いた分子動力学シミュレーションは,現在不可欠な研究手法になっている。しかし,これまで様々な種類のモデルポテンシャルが開発されてきたにもかかわらず,ホウ素を含むガラスについての分子動力学シミュレーションにおいて,ホウ素周辺の局所的構造について定量的だけでなく定性的にも十分に満足な結果が得られているとはいまだに言い難い。ガラスの中でのホウ素の配位数は組成や圧力印可によって様々に変化するが,その変化を再現することは,大きな未解決問題の一つとして挙げられる。

日本電気硝子(株) 梅本 幸一郎

5)ニューラルネットワークによるガラス融体の粘性率の回帰予測 ------- p.22 [試し読み]

近年,ガラスやガラス融体の特性を機械学習によりモデル化することが注目されている。これまで,ガラスの特性は重回帰分析により定式化されることが多かったが,非線形的な現象についてはその都度,その要因を注意深く考察した上で,説明変数の高次化や指数化等をする必要があった。一方,機械学習ではコンピューターで多数の繰り返し計算をすることにより,データに内在されているルールやパターンを自動的にモデル化することができる。これまでに,液相温度,ガラス転移温度,ガラス形成能,化学的耐久性,粘性率などについての機械学習のモデル化が報告されている。

秋田大学大学院 菅原 透

6)ガラス溶解プロセスにおけるデジタルツイン技術開発 ------- p.28 [試し読み]

ガラス製造工程の最上流であるガラス溶解プロセスでは,泡などの欠点を含まない均質なガラスをつくることが求められる。ガラスの安定生産を継続するためには,プロセスの状態に合わせて操炉条件を最適化していく必要があるが,ガラス溶解プロセス内部は約1600℃の高温環境のため,内部状態の詳細把握は容易ではない。実生産プロセス内部の状態は,原料や耐火煉瓦の状態等の様々な要因によって日々変化するため,これらの変化を見極めて安定生産を継続することは現代においても難しい技術課題の一つと言える。このような背景から,AGCでは長年開発に取り組んでいたガラス溶解プロセスのシミュレーション技術を発展させ,「デジタルツイン」の開発を進めている。デジタルツインの活用により,ガラス溶解プロセスにおいても内部状態変化に応じた操炉が可能となり,生産性向上や安定生産の実現が期待できる。

AGC(株) 関 大河

7)エア・リキードの酸素予熱燃焼と水素燃焼:シミュレーション活用と実炉検証 ------- p.32 [試し読み]

気候変動に対する取り組みとして,エア・リキードは持続可能な産業向けの低炭素ソリューションを開発している。HeatOxは,燃焼排ガスエネルギーを再利用し酸素・燃料を予熱する技術で,CO2排出量を低減する。クリーン水素は,化石燃料と置き換える事によって,温暖化ガス排出量を大幅に削減するための有望なオプションの1つである。エア・リキードでは,シミュレーション活用と実炉検証を同時に進めることで,これらの次世代ガラス熔融技術の推進に貢献する。

日本エア・リキード(同) 木村 誓史


ニューガラス大学院講座

機械学習を用いた原子間ポテンシャル ------- p.36 [試し読み]

分子動力学シミュレーションのために,従来から様々な原子間ポテンシャルが研究されてきている。これらは,事前に特定のモデル(関数)を仮定するのでパラメトリックなアプローチであり,各モデルのパラメーターを理論や実験に適合するように調節して利用されてきた。事前にポテンシャル関数を設計する必要のないアプローチに,密度汎関数法などの第一原理計算を用いて分子動力学シミュレーションをするアプローチ(第一原理分子動力学法)がある。このアプローチは事前にモデルを設計する必要がないメリットがあるものの,その計算コストが非常に大きいために大規模な系や長い時間スケールの計算は困難である。したがって,どちらのアプローチも一長一短であり,状況に応じて使い分ける必要がある。古典分子動力学法と第一原理分子動力学法の両方のメリットを取り入れることができ,近年注目を集めているのが機械学習に基づく原子間ポテンシャルによるアプローチである。

東北大学 志賀 元紀


ニューガラス関連学会

1)いざ! 食・酒・セラミックス協会2024年年会を楽しみに熊本へ! ------- p.43 [試し読み]

「やったー! 次の年会は熊本だ!」と心を躍らせたのは,いつかの行事企画委員会のときである(協会誌編集委員会からの派遣委員である)。筆者は第145回無機マテリアル学会学術講演会(2022年11月)に参加したとき,熊本に初めて訪れた。黒マー油の豚骨ラーメン(桂花は東京にもあるが,黒亭は当時初めて知った)や馬刺し(特にハツやレバー!)はもちろん,天草の車エビ(水槽から上げてもらい身は刺身,頭は塩でカラッと!),丼・焼肉・ローストビーフのいずれも絶品な赤牛,塩麹のおでん,身がしっかりしていて上質な油の天草大王(これで出汁をとった塩ラーメンも美味しい!),一文字ぐるぐる(ネギぬた),やまうにどうふ,からし蓮根など食は盛りだくさんだった。お酒も様々であり,特に筆者は「池の露」という芋焼酎に感動し,ひたすらロックで飲んだ記憶がある(ちゃんと記憶もある!)。

東京理科大学 町田 慎悟

2)『日本セラミックス協会 2024年年会』参加報告 ------- p.47 [試し読み]

2024年3月14日(木)〜16日(土)の3日間の日程で,日本セラミックス協会2024年年会が熊本大学黒髪キャンパスにて開催された。筆者は,会場となった熊本大学には,学生時代の学会参加で訪れて以来の十数年ぶりの訪問となった。黒髪キャンパスは,市内中心の桜町バスターミナルからバスで約20分という立地で,筆者は桜町バスターミナル付近に宿泊していたため,毎日30分くらいで会場へ到着していた。学会最終日の16日は土曜日ということもあり桜町バスターミナル付近は繁華街ということもあり賑やかで,熊本県ご当地キャラクター「くまモン」の誕生祭が開催されていたこともあり,多くの観光客で溢れかえっていた。

岡本硝子(株) 川田 耕司

3)GOMD 2024 参加報告 ------- p.52 [試し読み]

2024年5月19日〜23日に,アメリカ合衆国ネバダ州ラスベガス市において,米国セラミックス協会ガラス・光学材料部会が主催するGlass and Optical Materials Division Annual Meeting(GOMD)が開催された。ラスベガスはネバダ州最大の都市であり,カジノなどの娯楽施設を中心とする世界有数の観光地としても知られている。本学会はそのダウンタウンに位置するGolden Nugget Las Vegas Hotel & Casinoを会場として行われた。会場はラスベガス中心街や最寄りのハリーリード国際空港から約15km の距離にあり,バスを使うと約50 分程度で移動することができる。

京都大学大学院 佐々木 俊太


コラム

New Glass誌編集委員の経験を活かしたい ------- p.55 [試し読み]

いまみなさんが手に取られているNEW GLASS誌にも編集委員会が存在し,委員の方々が毎号頭を悩ませながら企画して,執筆者のご協力のもと誌面として発行されている。NEW GLASS誌では,大学・研究機関・企業のバランスを考えて編集委員会が構成されており,現在の編集長は名古屋工業大学の早川知克先生である。以下,編集委員としては大学から3名, 国立研究所から1名, 企業から7名,ニューガラスフォーラム事務局として2名となっている。筆者は,2018年3月号から2024年7月号まで約6年間,編集委員を務めさせていただき,名古屋工業大学の小幡亜希子先生に後任を引き受けていただいた。この度,その役目を終えるにあたって本コラムを執筆する機会をいただいたので,僭越ではあるが編集委員としての仕事と雑感について書いてみたい。

京都大学 金森 主祥



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