機関誌NEW GLASS [最新号目次] [目次検索] [購読申込] [機関紙表紙ギャラリー]



New Glass 136 Vol.37 No.2 (2022)


巻頭言

NGF会長就任にあたって ------- p.1 [試し読み] 2021年5月18日の国連総会にて,2022年を国際ガラス年とすることが定められた。この記念すべき年を,産業界,学会,工芸の分野をはじめ,ガラスに関連する全ての人々で祝福すべく,世界各国で様々な活動が行われている。国際ガラス年の活動では,文明の中でガラスが果たしてきた役割を再確認するとともに,持続可能で平等な社会に向けて,ガラスの教育機関,企業,美術館などの公共機関の活動を活性化し,若い世代の科学者やエンジニア,ジェンダーの平等,発展途上国の取り組みを支援する国際的な同盟の枠組み作りを目指すこととしている。

日本板硝子(株)取締役代表執行役社長兼CEO 森 重樹


特集「無機高分子と応用展開」

1)無機高分子:高分子材料からセラミックス材料までを俯瞰できる概念 ------- p.3 [試し読み] 本稿は,本特集「無機高分子と応用展開」のトップバッターである。そこで,Si-O 結合を骨格にもつ材料を取り上げて,高分子材料からセラミックス材料までを俯瞰できる概念としての無機高分子について概説したい。 標準化学用語辞典での無機高分子の定義は以下の通りである。「確立した定義はないが,ふつうは,無機化合物からなる高分子を指す.主鎖構造が同一元素のも(C,Si,Ge,N,P,S,As,Zn,Sb など)と,異なるものとがあり,前者にはダイヤモンド,黒鉛,後者にはボラゾール,ケイ酸塩,ホウ酸塩,リン酸塩,それらの水和物,ゲルなどがある.」前者に分類されているダイヤモンドや黒鉛は巨大分子と称されることもあるが,現在の無機化学では共有結合性固体として取り扱われている。これに対して,後者の多くは一般に無機化合物に分類されている。

早稲田大学 理工学術院 菅原 義之

2)シランカップリング剤の歴史 ------- p.7 [試し読み] シランカップリング剤は,ガラスと同様ケイ素と酸素を含む化合物であり,最近広く利用されるようになってきた。図にその構造を示すが,一番の特徴は,無機物,有機物双方と安定な化学結合を形成可能という点にある。有機物と安定な結合を形成するためには,炭素を含む化合物であることが必須であり,一方炭素は無機元素とは安定な結合を作りづらい。ケイ素は地殻中2 番めに多く存在する元素であり,酸素を介して多くの無機元素と結合を作る。一方で,周期表で炭素の真下に位置し,炭素とも安定な共有結合を形成する。実は,このような特性を持った元素は120 程度ある中でケイ素とゲルマニウムのみであり,資源が少ないゲルマニウムが材料用途で利用できないことを考えると,ケイ素が唯一の元素になる。 現在ではエコタイヤ(大量のシリカを含む),塗料(有機色素と金属を結合),接着剤などに含まれる他,無機物の表面を有機物で覆う表面修飾などに利用されているが,その歴史についてはあまり知られていない。本稿ではシランカップリング剤の歴史と今後の展望についてまとめる。

群馬大学理工学府 海野 雅史 他1名

3)シルセスキオキサン微粒子を基盤とした自己修復有機−無機ハイブリッド材料 ------- p.11 [試し読み] "硬い無機材料であるガラスは透明性や耐薬品性等に優れた特性を持つが靭性が低く一般に修復機能はない。近年,筆者らはケイ素原子に1個の有機成分と3 個の酸素原子が結合したTユニットからなり,粒径分布が比較的均一なシルセスキオキサン(SQ)微粒子「(R-SiO1.5)n, n= 8-24, R = 有機部位, 粒径<10nm」と結合組み換え部位としてイミダゾール/ 亜鉛配位結合を融合させることでガラス状態での自己修復能力と力学物性を併せ持つ有機−無機ハイブリッド材料を開発した。本稿では,このSQ 微粒子を基盤とした機能性自己修復ハイブリッド材料の概要を紹介する。"

山形大学大学院 佐々木 佑輔 他1名

4)有機−無機ハイブリッドシリカ分離膜の合成と高性能化 ------- p.15 [試し読み] 膜分離は,比較的簡単なシステムで運転が可能なこと,消費エネルギーが低いことなどから,効率的な分離プロセスとして重要である。本稿では,我々が検討しているポリシルセスキオキサン水分離膜の合成と高性能化について紹介する。海水の淡水化には,ポリアミド逆浸透(RO)膜が代表的なものとして広く用いられている。分離膜の性能は,通常,分離物の透過性と透過の選択性によって評価され,海水淡水化用の水分離膜では,透水性と塩阻止率がそれらにあたる。ポリアミド分離膜は,透水性・塩阻止率ともに非常に優れているが,耐熱性・耐塩素性といった耐久性に問題があるため,ロバストな次世代水分離膜の開発が求められてきた。一方,ポリシルセスキオキサン(PSQ)は,(RSiO1.5)n で表される分岐状の高分子であり,三官能性の有機シランの反応から合成される。熱的に非常に安定なシロキサン結合(Si-O-Si)で骨格が構築されているが,導入する有機基(R)の特性に応じて様々な物性・機能が付与できるため,有機−無機ハイブリッド型の機能性材料の代表例として知られている。

広島大学大学院 大下 浄治 他1名

5)オルトケイ酸のかご型8量体(Q8H8)からなる水素結合性無機構造体(HIFs)の開発 ------- p.19 [試し読み] 産総研触媒化学融合研究センターでは,2012-2022年3月まで経産省およびNEDO のプロジェクトとして「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」(略称:ケイ素PJ)を推進してきた(プロジェクトリーダー:佐藤一彦)。ケイ素PJ では金属ケイ素を経由することなく,砂から直接有機ケイ素原料を合成し,さらに,分子の構造制御に有効な革新的触媒を開発することで,精密に構造制御された高機能・高性能な有機ケイ素部材の創出を目標としている。本稿では,ケイ素PJ のSi?O 結合形成技術開発において達成したオルトケイ酸とそのオリゴマーの単離,および,オルトケイ酸のかご型8 量体(Q8H8)からなる水素結合性無機構造体(Hydrogen-bonded Inorganic Frameworks: HIFs)について紹介する。

産業技術総合研究所 五十嵐 正安 他1名

6)シリコーンの光学材料への応用 ------- p.27 [試し読み] シリコーンは透明性が高く,光学材料として有用である。レンズとして用いる場合,比較的低粘度の組成であるため,複雑な形状の鋳型での成型が可能である。ポリメチルメタクリレート(PMMA)等と異なり硬化系であり,硬化・成形される温度で鋳型から取り外すことができるのでプロセス効率も高い。また,硬化収縮が少ないので成型時の内部応力の蓄積も少なく,極性基による分子配列もないので光学的等方性に優れる。もちろん耐熱性に優れ,高い結合エネルギーに加えて紫外領域での光吸収が少ないので,図に示すようにポリカーボネート(PC)やPMMA に比べて耐熱性が高いだけでなく紫外線による着色も少ない。

ダウ・東レ(株) 伊藤 真樹


研究最先端

もみ殻を原料にした量子ドットLEDの開発 ------- p.30 [試し読み] 量子ドットとは,サイズが数ナノメートル(nm)の発光する半導体のナノ粒子である。その量子ドットは,鮮やかな色彩と綺麗な発色から夢の光材料とよばれ,量子ドットディスプレイが市場に出回り始めた。しかし,その本格的普及には解決すべき課題がある。シリコンは発光効率(発光量子収率)が低い(0.01%),またその発光は目に見えない光(近赤外線 波長1100 nm)であるため,発光材料には不向きと考えられてきた。しかし,大きさを数nm にして,表面を化学修飾したシリコン量子ドット(SiQD)は,フルカラーで高い発光効率を与えることが,近年,複数の研究者より報告され始めた。これらは,毒性,原料入手,発光効率においてSiQD の優れた特長と判断される。本稿で紹介する,もみ殻を原料とするSiQDは,持続可能な開発目標SDG17 のうち,目標12(作る責任,使う責任),目標15(陸の豊かさを守ろう)と関連深い。また量子ドット市場は2020年に6億5200万(USD)と試算され,2021年から2026年の予測期間にわたって40.9%を超える複合年間成長率(CAGR)で44億米ドルに達すると予想されている。

広島大学自然科学研究支援開発センター 齋藤 健一


ニューガラス関連学会

「日本セラミックス協会2022年年会」参加報告 ------- p.34 [試し読み] 2022年3月10日(木)〜12日(土),日本セラミックス協会2022年年会が今回もオンラインで開催された。年会は,オーガナイザー制で技術テーマごとのセッションが開かれる秋季シンポジウムと異なり,材料ごとにわかれて開催される。また,学術賞など前年度に受賞された方々の受賞講演があることや,技術奨励賞,部会ごとの企業研究フロンティア講演など,企業の研究発表を聞くことができる貴重な機会である。今年は,科学技術委員会イベントとして,「カーボンニュートラル」「SDGs」「DX」セッションが実施された。また,「特別講演」枠で,現在進行中である『国際ガラス年』の記念講演が行われた。

日本電気硝子(株) 高木 雅隆


新製品・新技術紹介

部分遮光ガラスの技術開発 ------- p.37 [試し読み] 光学ガラスの役割はその透明性と均質性において多量の光を透過し,各ガラスの特性により光を制御する機能性を有することで知られている。当社では長年にわたり撮像機器のレンズを中心とし,多様な屈折率・温度係数,透過率を持つ光学ガラスや特定波長を吸収,減光させるフィルターガラスの開発・製造・販売を行ってきた。 近年ではドローンや自動運転技術,AR 等への活用も広がり,使用環境による変化は求められるガラスの必要性能にも影響を与えている。これら狭小空間や屋外などで瞬間的に強い光に曝されるような利用では,多量に入射された光が空間内で散乱/ 回折といった現象を生じる。これらの現象はセンサー側で光学的ノイズとなり性能に悪影響を与えることになるが,これら光学的ノイズの発生要因が入射光条件に始まり,部材の材質や形状等あらゆる要因で発生する為,実際に作製に至るまでは実態のすべてを確認できず,その解決に多大な労力を必要とする。 当社ではこの課題に対し,「部分遮光ガラス」の開発を行ったので,その概要について紹介する。

HOYA(株) 丹野 義剛


新刊紹介

「Silicate Glasses and Melts Second Edition」 B. Mysen and P. Richet (Elsevier 2019) ------- p.40 [試し読み] 新刊紹介というには,少し時間が経っているが,2019年に発刊されたSilicate glasses and melts second edition について,本稿にて紹介させていただく。この書籍は,Elsevier から2005年に発刊された本の改訂版であり,以下の表のように初版と比較するとタイトルの変更がなされている。個人的に興味深いことは,初版で1章にまとめられていたガラスやメルト中における水に関する内容が,第二版において2章に渡って詳しく述べられているところである。これは,ガラスやメルトにとって,水,OH基が非常に重要であるというためだけでなく,初版発刊時に比べて,ケイ酸塩ガラスやメルトにおける水,OH 基の影響に関して,より詳細に調査した結果が多数報告されてきたためでもあると考えられる。

産業技術総合研究所 正井 博和


関連団体

2022年度「第12回定時総会」報告 ------- p.42 [試し読み] 2022年6月1日(水),(一社)ニューガラスフォーラム(NGF)の第12回定時総会が東京都新宿区百人町の日本ガラス工業センターにおいて,通常+Web の併用にて開催されました。委任状ならびに委任状による代理出席を含めて,正会員の議決権の過半数である15 社の正会員にご出席いただき,総会は成立いたしました。参加者は,通常参加が事務局メンバーを含め17名,Web参加が18名の計35名でした。一昨年度は書面開催,昨年度はWeb 開催でしたので,通常参加の皆様は実に3 年ぶりの対面での定時総会となりました。定時総会では島村議長のもと,2021 年度事業報告案ならびに収支実績案及び決算案と,2022 年度事業計画案ならびに収支予算案が審議され,いずれも全会一致で承認されました。

(一社)ニューガラスフォーラム


私の研究ヒストリー

大学での研究―その1 ------- p.44 [試し読み] "本稿ではまず,20 歳後半からの大学院時代の時の研究生活を述べる。英語は高校の時にはそれほど得意ではなかった。しかし国際化がどんどん進む環境であり,研究者となるためには英語は重要であろうと思い,学部では,ESS(English Speaking Society)クラブに所属し,英語に慣れ親しむようにした。クラブでは英会話テープで発音, ヒアリング,等を繰り返しの練習をした。日本語をなるべく使わず英語で会話すること等が主で地味な活動であり,時には英語での劇をやることもあった。 東工大では4年生のときに研究室に配属される。講義等でガラスの構造や準安定性などに興味をもったので森谷教授と境野助教授のガラス研究室を選んだ。国内では最古のガラス研究室の一つであり,両先生は講義も上手く,温厚な人柄で会社からも研究生が多くきていた。本格的に研究をしたのは博士課程のときからであろう。"

東京大学名誉教授北陸先端科学技術大学院大学名誉教授 牧島 亮男


コラム

我が家のぶどう ------- p.48 [試し読み] 私が住んでいるのは関東平野の端の「田舎」というよりも「山」と言った方が良いような森に囲まれた丘の上の住宅団地である。少し不便ではあるが,団地からどちらの方向に行っても林があり,散歩が好きな私はここが気に入っている。さて,この団地は敷地内の緑化が義務付けられているので,家を建てる際には敷地内に木を植えなければならない。我が家では,木を植えるのであれば食べられるものが良いと,家の周囲に何種類か実や芽が食べられる木を植えてみた。ここではそのうちの一つであるぶどうについて紹介しようと思う。 このぶどうについては,家を建ててから数年後にホームセンターでデラウエアの苗木をみかけてなんとなく買ってみたものである。

(一社)ニューガラスフォーラム 松野 好洋


[目次一覧へ戻る]

[検索ページへ]

[購読申込ページへ]