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New Glass 138 Vol.38 No.1 (2023)


巻頭言

非酸化物のガラス形成とZachariasen則 ------- p.1 [試し読み] 私がガラスの研究を始めたのは 1980年代半ばで,当時は,光ファイバの本格的な実用化に向けての開発が進められており,さらに,ZrF4系に代表されるフッ化物ガラスを用いた通信用超低損失光ファイバの研究開発も活発に行われていた。また,これらの研究が引き金となって,ガラスの研究開発においては,主に光ファイバやフォトニックデバイス等への応用を念頭に,フッ化物以外のハロゲン化物ガラスやカルコゲン化物ガラスなどの非酸化物ガラスの研究にも関心が持たれていた時期でもある。私もさまざまなハロゲン化物のガラス形成を調査していた。

京都工芸繊維大学材料化学系 角野 広平


特集「リチウム原料問題からリサイクル技術と次世代電池(全固体電池)」

1)リチウムの需給・価格動向 ------- p.3 [試し読み] リチウムは,金属の中で最も軽い元素で,ガ ラス用添加剤,窯業,金属グリースなどに用い られてきた。近年は,イオン化傾向が大きいと いう特性を活かし,自動車のバッテリーやモバ イル用電源として用いるリチウムイオン電池 (LIB)の原材料として欠かせない存在となって いる。特に昨今は,世界的なカーボンニュート ラル目標へ向けた動きの中での電気自動車 (EV)の販売増を背景に需要が拡大している。 本稿では,欧米諸国をはじめとする各国政府や 企業から戦略的重要鉱物とみなされ注目を浴び ているリチウムについて,生産方法や用途につ いて紹介したうえで,最近の需給動向及び価格 動向について整理する。

(独法)エネルギー・金属鉱物資源機構 西海 真理

2)イオン伝導体リチウム分離法LiSMICによる使用済LIBからの超高純度リチウム回収技術 ------- p.6 [試し読み] リチウムを輸入に頼らずに安定確保するためには,使用済の車載用 LIB のリサイクルが最も有力な手法である。しかしながら,既存技術を用いた車載用 LIB のリサイクルは高コストであるため,現在のところリチウムは回収されていない。そのため,リチウムのリサイクルの実現には,事業採算性を有するコストを実現できる新たな技術が必要である。その新たなリチウム回収技術として,イオン伝導体をリチウム分離膜とすることに着目し,様々なリチウム含有溶液からリチウムのみを超高純度で安価に回収可能な世界初の手法である「イオン伝導体リチウム分離法」(Lithium Separation Method by Ionic Conductor; LiSMIC1))を発案した。

(国研)量子科学技術研究開発機構 星野 毅

3)廃棄リチウムイオン電池の資源回収を目的としたキレートイオン交換樹脂による新規レアメタル分離技術 ------- p.12 [試し読み] 廃棄 LIB からレアメタルを分離・回収する技術としては水 - 有機液を用いた溶媒抽出法が主流であるが,資源回収にはこれらの設備や溶媒のコストがかかる。もしイオン交換樹脂を充填したカラムを用いて簡便なイオン交換法により繰り返しレアメタルの分離が可能となるならば,将来世界の分離技術の主流となりうるが,これらの樹脂を使用した Niと Co の分離の吸着特性がほぼ同じであるため非常に困難であった。我々の研究の方法は,イオン交換樹脂の中でもキレート樹脂を用いた分離技術であり,廃棄 LIB の酸溶解液から簡便な資源回収プロセスを確立するものである。

(株)イージーエス 近藤 治郎

愛媛大学大学院 青野 宏通

4)様々なかん水からのリチウム回収 ------- p.15 [試し読み] リチウム資源は、主に1億年〜6500万年前の大陸移動と隆起に伴って陸地に形成された塩湖 かん水と鉱石の2種類に大別される。図にリ チウム資源量を示すが,両者を合わせた資源量は,リチウム純分換算で 3400万トンと 試算され,その比率は 2:1 である。また,塩湖 かん水全体の資源量 2100 万トンのうち,チリ, ボリビア及びアルゼンチンの 3 か国で 80 % を 占め,鉱石資源量 1100 万トンのうち,米国が47% を占めている。

北九州市立大学 吉塚 和治

5)全固体電池への応用にむけたナトリウムイオン伝導性硫化物電解質の開発 ------- p.22 [試し読み] 持続可能な社会の実現に向けた取り組みが世界的に進められている中,安全性が高く,高エネルギー密度で長寿命を兼ね備えた大型蓄電池が求められている。そこで,難燃性の無機材料のみから構成される全固体電池の開発が期待されている。全固体電池を実現するためのキーマテリアルは固体電解質である。固体電解質が備えるべき要件としては,高いイオン伝導度に加えて,優れた成形性や電気化学的安定性などが挙げられる。リチウムイオン伝導性固体電解質については,硫化物と酸化物を中心に探索が進められてきた。特にリチウム含量の多い硫化物ガラスは上記の特長を併せ持つ魅力的な固体電解質である。

大阪公立大学 林 晃敏 他2名

6)全固体 Naイオン二次電池の開発 ------- p.25 [試し読み] 筆者らは、地球温暖化の防止のため現行の Li イオン二次電池が抱える問題を解決する全固体 Naイオン二次電池の開発を行っている。それは電解液を不燃性、且つ無毒な酸化物固体電解質へ変換し、Li や Co から資源リスクのないNaやFeに置き換えた蓄電池である。Li イオン二次電池の充放電は,正極と負極の 間で Li イオン(Li+ )の吸蔵・放出を伴う酸化還元反応によって起こる。充電では、正極からLi+が放出され電解液を移動して負極に吸蔵される。これと同時に電子(e-)が外部回路を通じて正極から負極へ移動する。放電では、Li+と電子の移動の向きが逆になる。電池内部を移動するキャリアイオンの Li+を Na+で置き換え、電解液を固体に変えたのが全固体 Naイオン二次電池である

日本電気硝子(株) 山内 英郎


研究最先端

微細ガラスフィルターを用いた圧力駆動型環境発電機 ------- p.30 [試し読み] 身の回りのあらゆるモノがインターネットにつながる IoT(Internet of Things)の普及に伴い,無数のセンサー類を動かすための電源として,熱や光,圧力を利用した環境発電技術が注目されている。中でも,身近で大きなエネルギーが得られるものとして,歩行の際などに発生する圧力(振動)を利用した振動発電が挙げられる。振動から電気を得るための方法としては,電磁誘導や圧電素子を用いたものが良く知られているが,電磁誘導は小型化が難しく,圧電素子は歩行のような遅い動きでは効率が落ちるという課題がある。そこで筆者らは水とガラス流路壁の電気的相互作用を利用し,流路に圧力をかけて水を流し,イオンを分離することで電力発生を利用することを着想した。

日本サムスン(株) 田中 陽


ニューガラス大学院講座

ガラスの組成と物性の相関−実用ガラスの組成はどのように決められているのか−(その2) ------- p.35 [試し読み] その優れた特性から広く使用されるようになった,主成分に SiO2に加えて B2O3を含むことから「ホウケイ酸ガラス」,さらにそれらに加えてAl2O3を含むことから「アルミノホウケイ酸ガラス」と呼ばれるガラスについて,その組成と特徴および実用化の経緯について解説する。また,新しい組成が開発される過程で,その組成が物性等種々の要因を考慮しながらどのように決められるのかについて,典型的な「ホウケイ酸ガラス」である「パイレックス(Pyrex)」の組成を例に挙げて解説する。

日本板硝子(株) 長嶋 廉仁 他1名


ニューガラス関連学会

1)第 63 回ガラスおよびフォトニクス材料討論会参加報告 ------- p.40 [試し読み] 2022年 12月 6日(月)と 7 日(火)の 2日間にわたり,東京たま未来メッセ(東京都八王子市)において,第 63回ガラスおよびフォトニクス材料討論会,ならびに共催特別企画として第18回ガラス技術シンポジウム(GIC18)が開催された。コロナ禍のためにオンライン学会となった第61回,62回をはさんで 3年ぶりの現地開催となったが,梶原先生(東京都立大学)を中心とする実行委員会による円滑な運営と感染対策の元,コロナ前と変わらない活発な議論が繰り広げられた。本稿では筆者が聴講した中からいくつかの講演についてその内容を報告する。

東北大学 寺門 信明

2)GIC第18回ガラス技術シンポジウム参加報告 ------- p.43 [試し読み] ガラス関連の6団体から構成されているガラス産業連合会(GIC)が主催する「第 18回ガラス技術シンポジウム」が,日本セラミックス協会ガラス部会主催の「第 63回ガラスおよびフォトニクス材料討論会」との共催プログラムとして,2022年 12月 6日に東京都八王子市の東京たま未来メッセで開催された。本シンポジウムでは例年同様,ポスターセッションおよび GIC招待講演が行われた。ポスターセッションでは,「ガラスやフォトニクス材料に関わる基礎科学および技術」,「企業の製品・技術紹介」,「ガラスに関係する大学等の研究室紹介」に関する様々な発表があり,活発に議論が行われていた。GIC 招待講演では,「カーボンニュートラルに向けた挑戦」をテーマに 4 つの講演が行われた。これらの講演の概略を以下に記す。

AGC(株) 遠藤 淳

3)国際ガラス年 IYOG2022 CLOSING CONFERENCE 参加報告 ------- p.46 [試し読み] 2022年国際ガラス年 International Year of Glass (IYOG)の締めくくりとなる国際ガラス年 2022 CLOSING CONFERENCEが,東京大学安田講堂で 12月8〜9日の日程で開催された。今回,リモートと対面のハイブリッド開催が採用され,国内外でネットワークから参加される方も多かったが,2022年10月から日本入国への制限が解消されたことにより,Reinhard Conradt 国際ガラス委員会(ICG)会長,Alicia Duran 前会長,Manoj Choudhary 前々会長らに来日していただくことができた。

名古屋工業大学大学院 早川 知克

4)第147回NGF若手懇談会「IYOG2022 国際ガラス年特別講演会」参加報告 ------- p.50 [試し読み] 2022年10月19日,ニューガラスフォーラム(NGF)若手懇談会が主催する第147回NGF若手懇談会講演会が開催された。NGF 若手懇談会はガラスに関連した各業界の若手を中心としたメンバーから構成されており,年3回の講演会と1回の見学会を通じて会員間の交流・知識レベルの向上を目的としている。今回の講演会では国際ガラス年(IYOG)を記念し,IYOG2022の日本実行委員会とのコラボ企画として,「IYOG2022 国際ガラス年特別講演会 異業種・異分野から見たガラスの可能性−ガラスを用いた次世代材料と製品−」と題し,ガラスを使用する立場の異なる業界から 3名の講師をお招きしてご講演頂いた。

東洋ガラス(株) 小西 和明


関連団体

2023年「ガラス産業連合会 新年会」報告 ------- p.52 [試し読み] 2023年 1月 20日,ガラス産業連合会(GIC)新年会が,東京都千代田区の如水会館での対面と YouTube同時配信のハイブリッド形式で開催されました。昨年は新型コロナ感染拡大のため Web 開催となりましたが,今年は参加人数を限定させていただいた形ではありますが,無事対面にて開催することができました。会場出席者が 107名,リアルタイムでの YouTube 視聴者が 48名,計 155名の方が参加されました。

(一社)ニューガラスフォーラム 事務局


私の研究ヒストリー

研究生活を振り返って(その1) ------- p.57 [試し読み] 太平洋戦争中に生まれた私の世代は,少年期・青年期・壮年期がそれぞれ戦後復興期・高度経済成長期・絶頂期とほぼ重なっており,日本の産業の発展成長とともに歩んできた。高度経済成長期といえども今よりはずっと貧しかったが,他方で荒削りで自由度が多いダイナミックな時代であった。そんな時代を過ごした私の研究生活を振り返ってみようと思う。

岡山大学名誉教授 三浦 嘉也


コラム

宇宙でのガラスづくりから人類の未来を考える ------- p.60 [試し読み] 学生時代の筆者は,新しいもの,尖がったもの好きが高じて航空宇宙材料工学専攻に所属していた。飛行機やロケットや衛星,果ては宇宙ミッション全体のシステムを構築するのに必要な勉強を下地に,そこから一段掘り下げて宇宙で使用される材料について研究してきたのである。ガラス材料に初めて正面から向き合ったのもこの時で,スペースデブリや隕石に衝突されたガラス材料が,どのように破壊していくのかを解明する,ニッチだが大変難易度の高いテーマを担当していた。

AGC(株) 長野 幹雄


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