巻頭言賢くならねば ------- p.1 [試し読み] 国際情勢が混沌とする中で,人や組織を動かす原理が「競争」だけになりつつあるように感じられます。「科学の世界もそうなのかなぁ」などと思ういまの私は,論文を書くときにだけ心を落ち着かせることができるようです。齢64 の私が「論文を書くときにだけ心を落ち着かせることができる」などというのは,いまの科学界からは呑気なこととだとしか受け取られないのかもなどと思いつつ。
関西大学化学生命工学部 幸塚 広光
特集「半導体を支えるガラス」1)半導体製造に用いられるシリカガラス ------- p.3 [試し読み] シリカガラスは,数々の優れた性質を有している。それらの性質を活かして半導体製造に広く使用されている。シリカガラスにはさまさま製造方法がある。半導体製造の使用部材に応じたシリカガラス特性の活用について述べる。シリカガラスはシリカの粉末を電気あるいは火炎で溶融した溶融シリカガラスと液体原料から合成した合成シリカガラスに分けられる。
福井大学 葛生 伸
2)半導体露光装置と石英ガラス ------- p.7 [試し読み] 弊社は1989年 NEW GLASS Vol. 6 No.2 に「ステッパー用石英ガラスについて」のタイトルで寄稿させていただいた。将来の高精細化すなわち光源の短波長化に向けて,レンズ素材として石英ガラスの必要性を示したものである。さらに1999年 NEW GLASS Vol.14 No.3 に寄稿した「半導体露光装置と光学材料」の中で,当時SEMATECHが提案したエキシマレーザー光源を使用した露光装置の投影レンズ用光学素材に対する要求仕様に触れ,その実現に必要となる計測技術の必要性について示した。それ以降,前述の仕様を上回るサイズ,品質が光学系設計の前提となっただけでなく,偏光照明の導入などによって耐久性向上への対応が重要視されるようになった。本稿ではKrF エキシマ光源以降の露光機で投影レンズの主材料となった石英ガラスの製造方法と,直接法石英ガラスからスート法石英ガラスへの転換について述べてみたい。
(株)ニコン 福山 瑞希
3)半導体キャリアガラス ------- p.12 [試し読み] 身の回りにある電子機器のトレンドである小型化/高性能化に加え,産業界ではAI/IoT技術の導入が進められる。AI/IoT技術の進歩は,世の中で処理する情報量が膨大に増えることを示しており,その情報を処理する役割を持つ半導体も日々高性能化が求められている。近年,半導体の高性能化の手段として,従来のトレンドであった配線の微細化に加え,3次元集積化技術の開発が進んでいる。3次元化の効果として,省電力化を達成しつつ情報の処理能力を向上させることができ,半導体各社で集積技術の開発が進められている。中でも代表的な技術として,Fan-Out Wafer level Packaging(FOWLP)がある。FOWLP は機能の異なる複数の半導体チップを1つに集積でき,I/O 端子の配置の自由度が高いことから,小型で高性能な半導体チップの形成プロセスとして採用されている。
日本電気硝子(株) 田鎖 光力
4)絶縁体基板上へのシリコンおよびゲルマニウム薄膜の結晶成長 ------- p.16 [試し読み] ガラス等の絶縁体基板上への半導体薄膜の形成は,ディスプレイ制御用の薄膜トランジスタ(TFT)等幅広い応用分野を持っている。また集積回路の分野においても,絶縁体と単結晶半導体の積層構造であるSOI(Silicon on Insulator)基板が利用されている。SOI 基板は表面を酸化した単結晶Siウェハーを貼り合わせる方法で製造される。この方法で作られたSOI層は単結晶であり,高性能が求められるアプリケーションに対して強みを持つ。SOI基板と同じ発想でSOS(Silicon on Sapphire)と呼ばれる基板も開発・製造されている。SOS基板は,貼り合わせ法の他,サファイア基板上に半導体を結晶成長する方法でも製造される。フレキシブルなプラスチック基板上への半導体薄膜の形成技術もまた非常に重要な技術分野であるが,この場合も基板材に半導体を成膜する方法が有力である。本稿では,絶縁体基板上への半導体薄膜の結晶成長について紹介する。
山梨大学 有元 圭介
研究最先端1)ケイ酸塩融液における超高温域のソレー効果〜SiO2成分の低温側への拡散〜 ------- p.20 [試し読み] 温度勾配を駆動力とした原子拡散により高温域と低温域で濃度差が生じる現象を「ソレー効果」と呼ぶ。1856年にC. Ludwigによって報告され,次いで1879年に C. Soreによって報告された。二成分系のソレー効果を説明するために,温度勾配下での成分1の質量流束J1を表す拡散方程式を次式に示す。J1=-ρDm gradX1-ρX1X2Dt mgradT ここで,添字1,2は二つの拡散種を表しており,ρ:密度,X:モル分率,T:温度,Dm:相互拡散係数,Dt:熱拡散係数,gradは勾配を表す演算子である。右辺の第一項は,濃度勾配を駆動力とする項であり,第二項は温度勾配を駆動力とする項である。十分な時間が経つと,両者がバランスをとって定常状態に達する。
京都大学大学院 清水 雅弘
2)ゼオライトのトポロジーを有する非晶質シリカの創製 ------- p.27 [試し読み] 窓ガラス,スマートフォンのカバーガラス,光ファイバに代表されるように,ガラスは我々の生活に不可欠な材料の1つである。ガラスは,規則正しく周期構造を形成している結晶と異なり,一見すると構成する原子が無秩序に結合した構造になっている。一方で,最近では,ガラス中において,結合した2原子間の長さを超えた距離スケールで,緩やかな構造の秩序性が存在することが放射光施設などを用いた実験により明らかになっている。このような緩やかな秩序性は,短距離秩序(最も近接した原子間の構造)と,長距離秩序(結晶のような規則正しい繰り返し構造)の中間に位置するものとして,中距離秩序と呼ばれ,ガラスにおける機能化に重要な役割を果たしていることが報告されている。特に,この中距離秩序を定量化することにより,ガラスの科学をより深化させようという試みがなされている。
産業技術総合研究所 正井 博和
物質・材料研究機構 小原 真司
ニューガラス大学院講座物性予測のための機械学習法 ------- p.34 [試し読み] "2000年代の後半以降,人工知能の研究分野においてマイルストーンとなる成果があげられてきた。例えば,音声や画像の高精度な認識技術,プロの囲碁棋士に圧勝できるほどのコンピュータ棋士AlphaGO,DNA 配列から高精度でタンパク質を予測する技術AlphaFold,人間と対話するようにチャットできるChatGPT,またテキストから芸術家のように画像を生成する生成AI のように数多くの応用技術が研究・開発され,本稿が出版されるまでにも世の中を驚かすようなアプリケーションが発表されうる状況である。初期(1950年代)の人工知能の研究では,目的課題を達成する知的処理システムを構築するために,予測や行動のためのルールを研究者自身が設計してコンピュータを動作させていたが,このアプローチでは現実の複雑な問題を取
東北大学 志賀 元紀
ニューガラス関連学会1)第64回ガラスおよびフォトニクス材料討論会参加報告 ------- p.40 [試し読み] "令和5年11月27, 28日に開催された第64回ガラスおよびフォトニクス材料討論会に参加させて頂いた。会場は愛媛県松山市の松山市教育センターであった。松山空港に到着するとすぐに巨大なみかんジュースタワーに目を惹かれた。バスで空港を離れるとやがて松山城の堀が目の前に現れ,その周りをぐるりと回って松山市の中心部,大街道に辿り着いた。学会会場はそこから路面電車に乗り換え数分,愛媛大学の真横に位置していた。バスに乗り続けてもう少し奥まで進むとすぐに道後温泉にたどり着くようで,学会会場は松山を楽しむ上で非常に好立地にあった。"
東京工業大学 富田 夏奈
2)第19回ガラス技術シンポジウム報告 ------- p.43 [試し読み] 2023年11月27日に,第19 回ガラス技術シンポジウム(以下GIC19 と記載)が,第64回ガラスおよびフォトニクス材料討論会(以下ガラ討と記載)との共催で開催された。今年のガラ討は,愛媛大学の武部研究室,斎藤研究室にお世話いただき,4年ぶりに全く制約の無い対面での開催となった。小職は今回も運営側として準備から関わったが,改めて人と会って話をすることの意義を感じる会となった。ちなみにGIC(ガラス産業連合会)はガラス産業に関連する6団体より構成され,2000年3月に発足した団体である。産学官の連携促進活動の一環として本シンポジウムを企画,運営しており,今年で19回目を数える。
日本板硝子(株) 瀬戸 啓充
3)第62回セラミックス基礎科学討論会参加記 ------- p.46 [試し読み] 日本セラミックス協会の基礎科学部会が主催する第62回セラミックス基礎科学討論会が,2024年1月7-8日の期間,上智大学四谷キャンパスで開催された。この討論会は,セラミックスの基礎を中心に広範囲の分野について討論を行うもので,毎回200件以上の発表がある。今回はコロナが5類に移行したこともあり,対面のみでの開催となり,250名強の参加登録があった。会場は四ツ谷駅から徒歩数分という恵まれた立地であり,昼食や夕食,ホテルの選択肢も多く参加者からも好評であったように思う。会場の設備も良く,討論に集中できる環境であった。討論会の内容としてはガラス関係の研究発表も多く,ガラス関係の技術者・研究者の本討論会への参加は意義深いと感じた。以下に,ガラスに関する発表をいくつか取り上げ紹介する。
(国)豊橋技術科学大学 河村 剛
関連団体2024年「ガラス産業連合会新年会」報告 ------- p.49 [試し読み] 2024年1月26日(金),ガラス産業連合会(GIC)新年会が,東京都千代田区の如水会館にて開催されました。昨年は新型コロナ感染拡大のためシアター方式での対面とWeb の併用開催となりましたが,今年は参加人数をある程度限定させていただいた形ではありますが,4年ぶりに通常の立食方式で開催することができました。経済産業省,学界,会員企業,関連団体,報道機関等,244名の方々にご参加いただき,盛況となりました。この新年会は6団体で主催しており,今年は一般社団法人板硝子協会の伊東専務理事の司会で行われました。
(一社)ニューガラスフォーラム 事務局
コラムニューガラスフォーラム(NGF)へ行く ------- p.54 [試し読み] 1985年に設立されたNGF は間もなく40 年。1984年に就職した私が最初にNGF に関わったのは,データベース委員会委員になった2009年(〜2018年)である。データベース委員会はガラスデータベースである「インターグラッド」の問題点の対処など運用について話し合う場である。当時はインターネット接続で作業すると動作が遅くトラブルが発生することがあり,各種データを使用者側のPCにダウンロードして使用することが多かったと記憶している。2009年にVer.7にアップし,また,構造と組成の関係に関するデータベースも使用可能となり,ネット環境とともにインターグラッドも大きく変化したと感じた。
日本電気硝子(株) 高木 雅隆
追悼作花済夫先生の訃報に接して ------- p.57 [試し読み] 京都大学名誉教授,三重大学名誉教授の作花済夫先生が2023年11月13日に逝去されました。享年93。当日は,寮歌祭(横浜市)に出席されるため,ご自宅から最寄りの鉄道駅に向かう途上で倒れられたとご遺族より伺っております。10月7日に開催された作花研プチ同窓会(京都市)では矍鑠としておられたとのことでしたのに,驚きを禁じえません。作花先生は,1930年12月11日に大阪市生まれ。1948年旧制天王寺中学卒業,1953年京都大学工学部工業化学科を卒業され,1953年より同大化学研究所助手,1963年より同助教授,1965〜1968年レンスレアー工科大学 博士研究員,1972年より三重大学工学部教授(工学部),1983年より京都大学化学研究所教授,1994年より福井工業大学教授,2003年同大学を退職されました。
(国)産業技術総合研究所 福味 幸平